スズキナオ
フリーライター
大阪在住のフリーライター。酒場めぐりと平日昼間の散歩が趣味。1,000円以内で楽しめることはだいたい大好き。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーとしても活動中。著書に『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)など。
あてのない散歩が好きだ。
思うままに街を歩き、気になった店や場所があれば立ち寄って、またどこかへ。私は酒飲みなので、その途中に一杯か二杯、気軽に飲んでいけるような店が見つかるとなおさらうれしい。そういう風に過ごした一日は、予定をしっかり立てた日とは違って妙に後々まで心に残ったりする。
散歩の合間にブックオフを見かけると、よく立ち寄る。たいていは税別100円のセール棚を眺めて、CD棚を見て、ちょっとした買い物をするぐらいなのだが、いつも思いがけない発見がある。家に帰ってリュックの中に散歩の収穫が残っている感じも楽しい。
ブックオフをめぐりながら散歩をしたら楽しいのではないかと思った。ブックオフに寄って買い物をして、近くの店で軽く飲んで、また次のブックオフに向かう。いわば「ブックオフハシゴ酒」である。数軒のブックオフに寄るということだけは決めて、あとはもう行き当たりばったり。そんな散歩もまた、いいものだ。
京橋(BOOKOFF京阪京橋店と二升五合)
最初にやってきたのは大阪市都島区にある「BOOKOFF京阪京橋店」だ。
ここは住まいの最寄りのブックオフで、これまで幾度となく訪ねてきた。ちなみにkiki京橋というショッピングビルの3階に入っていて、同じビルに京都に本店を持つ老舗ラーメン店「新福菜館」の支店もあるので、その2軒をハシゴするのが私のいつものコースである。が、今日はまずブックオフへ向かう。
店内には書籍、CD、ゲームなどの売り場がバランスよく配置されていて、中古レコードのコーナーもある。いつも通り、まずはセール価格の本棚をチェックする。私はここでちくま文庫の既刊を探すのが特に好きだ。「こんな本が出ていたのか」と思うような、新刊販売時には気づけなかった本が見つかるのが楽しい。
レコードコーナーでは、「イージーリスニング」とか「その他」の箱をチェックするのが特に好きである。ここ、BOOKOFF京阪京橋店には試聴用のプレーヤーも置かれていて、楽曲をチェックしてから買えるのがうれしい。まあ、ジャケットやタイトルだけで曲調を想像して買ってみるのも楽しいけど。
文庫本2冊、レコード3枚を買って店を出た。
京橋駅周辺には大阪でも有数の歓楽街が広がっており、明るい時間からでもお酒を飲める店がたくさんある。
どこに入ろうかとかなり迷った末、「二升五合」と書いて「ますますはんじょう」と読ませるらしい立ち飲み店へ入ることにした。
まだ昼過ぎだが、店内はすでにお客さんでいっぱいだ。朝11時から夕方18時までの「昼呑みサービス」はおつまみ3品と好きなドリンク1杯で620円と安く、多くの人がまずはそれを注文しているようだ。私もそれにならう。
数日おきに変わるという“おつまみ3品”の内容は、おでんの中から好きものを一品、高菜おろし、ゴマスティック天、とのこと。そこにキリン淡麗の中ジョッキを合わせれば、なんとバランスのいいセットだろうか。先ほど買った文庫本を片手にしばし時間を過ごす。
今日の一杯目だけあって、ジョッキはすぐに空になった。瓶ビールを追加し、さらに「魚肉ソーセージ炒め」もいただくことにする。お店の方も気さくで、和やかで居心地がいい。ついつい長居してしまいそうになるが、サクッと飲んで出ていく常連らしきお客さんを見ならい、私もここは軽めに、次の目的地へ向かうことにする。
戎橋(BOOKOFF PLUS なんば戎橋店とシバチョウ本店)
地下鉄に乗ってやってきたのは「BOOKOFF PLUS なんば戎橋店」だ。多くの人で賑わう心斎橋エリアにある店舗で、ファッションやブランド品も扱う「BOOKOFF PLUS」という業態となっている。
ブックオフは基本的にその店で買い取ったものをその店で販売するスタイルだと聞いたことがある。ということは、店のあるエリアごとに品揃えが変わってくるということだ。そう思って見てみると、エンタメ系書籍が充実しているような気がする。私の好きなちくま文庫棚もかなりの幅をとっていた。
私がパリッコさんと一緒に書いた本も発見! 誰かがまた読んでくれますように。
また、場所柄だと思うのだが海外観光客の姿も多く、みなさんがレトロゲームのコーナーを熱心にチェックしているのが印象的だった。私もその中に混ざってファミコンやスーパーファミコンのソフトを懐かしく眺めた。
さて、ここではレコード2枚と文庫本2冊を購入。気づけばだいぶ時間が経ってしまっている。もっともっとじっくりと棚を見ていたかったが、途中で「このペースではここで終わってしまう!」と思った。ブックオフはかなりの時間泥棒である(いい意味で)。
近くに酒屋の店頭でお酒が飲めるいわゆる「角打ち」があったのを思い出して立ち寄ることにした。難波センター商店街沿いの「シバチョウ本店」である。
創業150年以上になるという老舗で、店内のちょっとしたスペースでお酒を飲んでいくことができる。おつまみはスナックなどの乾きものが中心だ。
キリン一番搾りの黒ビールを飲みつつ、先ほど買った文庫のページをぱらぱらとめくる。光文社・知恵の森文庫から出ている『東京B級グルメ放浪記』という本を買ったのだが、カラーページに美味しそうな料理の写真が載っているような内容で、こういうのを片手に酒を飲むのが私は大好きなのである。
何かおつまみを……と店内を見回すと一口サイズのちりめん山椒とお漬物が売られていたのでそれをいただくことにした。このちりめん山椒、近所の天ぷら屋さんで作っているものだそうで、爽やかな香りがしてお酒が進む逸品だった。日本酒の銘柄も色々揃い、どれも角打ちならではの安価で飲める店なので、あれこれ飲んでいきたいところだが……もう一店舗はブックオフに行きたいと思って我慢。今度またゆっくり飲みに来たい。
喜連瓜破(BOOKOFF 喜連瓜破駅前店と酔所)
再び地下鉄に乗り、次は喜連瓜破駅に向かう。難読駅としても名高い「喜連瓜破」。これで「きれうりわり」と読む……と、駅名と読み方は知っていたものの、初めて降りる駅である。駅近くに「BOOKOFF 喜連瓜破駅前店」があると知り、そこを目指してきた。
BOOKOFF 喜連瓜破駅前店はビルの1階と2階が店舗スペースになっていて、敷地が広大。ここもまた、どれだけ時間があっても足りないぐらいチェックし甲斐のある店だ。
この店舗にもレコード盤のコーナーがあってうれしい。今度は個人的にブックオフで中古レコードばかり買うツアーをしてみようかと思った。
この店舗でもレトロゲームコーナーが充実していた。スーパーファミコンの本体が何台もあって壮観であった。
ここではグルメ関連の書籍、旅行関連の書籍の棚を中心に見てみることにした。興味のある料理に関する本や、行ってみたい土地の紀行文やガイドブックがたくさん見つかり、ここでもかなりの時間を使ってしまった。
だいぶ時間をかけて3冊の書籍を購入する。
外に出てみるともうすっかり夜になっていた。今日のブックオフめぐりはここまでにすることに。最後に一杯ひっかけて帰るとしよう。喜連瓜破駅周辺を歩くのが初めてなので、どのあたりに居酒屋があるかわからず、とりあえずはうろうろしてみる。
個人店やチェーン店の前に立ち止まり、「ここにしようか、いや……」などと迷って歩く時間もまた楽しい。だいぶ歩き回った末、最終的に「酔所」と書いて「よいしょ」と読むらしい店に入ってみることにした。
明るくアットホームな雰囲気のお店で、ここもまた居心地がいい。今日のハシゴ酒、どこも当たりだな。まずはチューハイとシューマイをいただき、一息つく。
ずっしりと重くなったリュックの中から先ほど買った本を取り出してパラパラと読む。ああ、なんと心落ち着くひととき。
おつまみメニューの中からチョイスしてみた八宝菜が具沢山でとても美味しかった。今日の一日の締めにぴったりな一品に思えた。
常連さんらしき方が注文していたワインサワーを真似して飲んでみたら、それもまたいい味。チューハイに赤ワインを加えたものなので、飲みやすいけどグッと濃い。気づけばほろ酔いとなり、帰路につくことにした。
家に帰り、ソファに腰を下ろす。買ったレコードを聴きながら、本を手に取り少し読んで今日の一日を思い返す。そうしていると、心地いい疲労感と達成感が、じわじわと湧き上がってくるのだった。
TEXT/PHOTO スズキナオ
【ブックオフのあった生活】
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