目的があるわけではないのになんとなく足を運んでしまう。ブックオフがもつ不思議な力や人生におけるブックオフの在り方について、ブロガーであり作家でもあるphaさんが思いをしたためます。

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pha

ブロガー、作家

京都大学後卒業後、元「日本一有名なニート」という肩書でブロガーや作家として活動。phaさんを中心にインターネット好きを集めたシェアハウス「ギークハウス」がザ・ノンフィクションで特集されるなど、その独特な生き方は人々に新たな気づきを与える。

ブックオフか。昔に比べたら行かなくなったな。一瞬そんなふうに思ってしまったのだけれど、よく考えれば昨日も行ったし、土曜日にも行った。数えてみると週に2回か3回はブックオフに行っている。これは一般的には「行っている」ほうだろう。

これで行く回数が減ったというならば、昔はどれだけ行ってたんだという話になる。20代の頃は週に5日は行っていた。さすがに行き過ぎだったと今では思う。

あの頃は若くて暇で、お金がなくて、体力があった。特にやりたいこともなく、どんなふうに生きていったらいいかもよくわからず、ブックオフくらいしか行く場所が思いつかなくて、一日中マンガを立ち読みしていた。

今は昔に比べればお金に余裕もできた。立ち読みは疲れるのでしなくなったし、本を買うときは電子書籍を買うことも多くなった。

それなのに、なぜ僕は今でもこんなにブックオフに行ってしまうのだろうか。

ブックオフには気迫がない

本を読むのが好き、というか本を読むくらいしか趣味がないので、ブックオフだけでなく新刊書店にもよく行く。

でも、ブックオフに行くときの気持ちと、新刊書店に行くときの気持ちは全く違う。新刊書店に行くのは何か面白い本を買いたいときだけど、ブックオフに行くときの気持ちは、もうちょっと幅が広い。

本が読みたいかどうかもわからないけど、特にしたいことも思いつかなくて、なんとなく何か面白いことはないかな、とぼんやり思っているようなとき。そんなときに、ついブックオフに向かってしまうのだ。ブックオフは、そんな曖昧な気持ちを受け止めてくれる。

そして、最初は何も買うつもりじゃなかったのに、店を出るときには何冊か本を手にしてしまっている。それがブックオフだ。

BOOKOFF武蔵境連雀通り店
BOOKOFF武蔵境連雀通り店

新刊書店には、「本を売りたい!」という気迫が満ち溢れている。それは、「この内容を読んでほしい!」という著者の思いでもあるし、「この本がたくさん売れてほしい!」という出版社の思いでもあるし、「面白い本をたくさんの人に届けたい!」という書店の思いでもある。

新刊書店に入ると、帯と表紙とポップが、面陳と平積みと棚差しが、「10万部突破!」と「現代人必読!」と「〇〇賞受賞!」のPOPが、四方八方から「この本を買って!!!」と訴えかけてくる。新刊書店の棚は、人間たちの気迫や熱意がしのぎを削って、限りあるスペースを奪い合う戦場なのだ。そこでは、売れる本しか生き残れない。

僕は本が好きな人間だし本を書いている人間でもあるので、本に対する熱意には共感する。でも、ときどき、そうした競争の場にいることに疲れるときがある。

新刊書店を何も買わずに出るときは、少し後ろめたい。「確かに面白い本ばっかりなんやろけど、こっちの時間もお金も読む気力も有限やから、全部買うわけにはいかんのよ、すまんなあ」そんなふうな言い訳を、誰に聞かせるわけでもなく頭の中でつぶやいてしまう。

それに比べて、ブックオフには「この本を売りたい!」という圧が全くない。ブックオフにはただ、買い取られてきた本が機械的に並んでいるだけだ。その棚の並びには誰の意志も介入していない。

ブックオフにいると何も押し付けられることがない。だから気分が落ち着く。世の中には読まなきゃいけない本なんてない。本なんて、別に買ってもいいし買わなくてもいい。読んでもいいし読まなくてもいい。ただ、読みたいときに自分の楽しめる範囲で好きなものを読めばいいのだ。そういえば、そういうものだった。

巨大な本の森が呼吸をしている

ブックオフに行くたびに僕は、いつもこんなイメージを思い浮かべてしまう。

各家庭から排出された本が、ある一箇所に集められる。そうすると本たちが自然とジャンルごとに寄り集まり、本の塊を作り、その塊が頭上高くまで伸びていき、一帯にそびえたつ。そうやって生まれた巨大な本の森、それがブックオフだ。それはあくまで本たちによる自律的な自己組織化の結果として生まれたもので、人間が意図して作り上げたものではないのだ。

森は呼吸をしている。来訪者たちに「森の恵み」としての本を提供しつつ、定期的に各家庭からの買い取りを養分として吸収する。しばらく動きがない本は自動的に100円へと値下げされ、そこでも売れないと廃棄されるという循環システムがある。まるで自然の生態系のようだ。

新刊書店には「売りたい本」と「売れる本」しかない。だけど、ブックオフには、誰も見向きもしないような本も、一時期みんな読んだけどすぐに飽きられた本も、こんな内容を本にする価値があるのか疑問に思うような本も、全ての本がある。内容に価値がない本も、誰も話題にしなくて誰も読まない本も、現代に生きているわれわれの一部であることに間違いはない。

そんな忘れられた本たちが流通経路の果てに流れ着き、静かに積み重なっている場所がブックオフだ。それは現代日本の集合的無意識のようなものなのかもしれない。

僕は今日も、そんな静かな混沌の中に潜入していく。

「狩り」の楽しさ

ブックオフの店内に入ると、まず100円棚に向かう。

100円棚はブックオフの華だ。手元に110円しかなくて何か暇つぶしをしないといけないとしたら、迷わずブックオフに行く。今の時代、110円で買える娯楽が他にあるだろうか(ない)。ブックオフには、110円で手に入る娯楽が何千冊も売られている。

ブックオフの100円棚

もちろん、ブックオフの中でも、100円棚よりも普通の棚のほうがいい本が並んでいる。ブックオフの値付けの仕組みは、まず普通の棚に本が並び、そこでしばらく売れなかったものが100円棚に落ちていく、というふうになっている。だから100円棚にあるのは、そんなに新しくも人気でもない本が多い。だけど、その中から使える本を探し出すという、宝探し感がいいのだ。

ブックオフが巨大な森だとしたら、その森の中に分け入って、木の生え具合や地形を見定めながら、食べられる木の実を拾って歩いたり、落ち葉に隠れたキノコを見つけ出すような感じ。きれいにパッケージ化された娯楽を消費するのではなく、自分の力で価値を見つけ出す「狩り」の楽しさがブックオフにはある。

軽く深呼吸をしてから、自分の背丈より高い本棚に向かい合う。この玉石混交の混沌の中から、暇な時間を共にすごすパートナーを選ばなければいけない。真剣勝負だ。

棚を見るときは、一箇所に目の焦点を合わせるのではなく、なんとなく焦点をぼやけさせて広い範囲を全体的に見るようにすると、高速で見ていくことができる。これは昔ブックオフで立ち読みした格闘マンガで学んだテクニックだ。文庫や新書の棚は、タイトルと著者名がずっと同じフォーマットで並んでいる。このときは、タイトルの列を見るのではなく著者名の列を見ていったほうが自分に引っかかるものを探しやすい。

しょっちゅうブックオフに行っていると、「この本なら大体どこのブックオフにもある」とか「この本なら3軒回れば110円で買える」という目星が大体つけられるようになる。家の本棚のキャパには限りがあるので、ブックオフでいつでも安く手に入る本は、読み終わったらすぐに処分してしまう。読み返したくなったらまたブックオフに行って買う。そうするとブックオフは自分の本棚の延長になる。

瞑想としてのブックオフ

じっと棚に向かい合っていると、だんだんと「ゾーン」に入ってくることがある。

「この著者こんな本出してたんだ。え、5年も前に」
「この本が210円は安い。状態もいいし買いたい。家にあるけど」
「同じ著者の本が離れた場所にあるのが気持ち悪いから並べ替えてあげよう」
「そういえば仏教の話、気になってたんだよな」
「温泉行きたい」
「うちの本棚も整理したいな」
「帰りに入浴剤を買って帰ろう」

そんなとりとめのない思考が次々と浮かび上がっては、有機的につながっていく。

同じ本棚を見ても、どの部分に反応するかはそのときの自分の状態によって変わってくる。ブックオフは何も押し付けてこない。だからこそ自分自身の内面が試される。混沌から何を読み取るのかは自分次第だ。

普段なんとなく気になってはいたけれど、思考の表層には浮かび上がってこなかったもやもやしたものたちが、ランダムな本のタイトルを大量に目から脳に流し込み続けていると、ふと言語化されて浮かび上がってくるのだ。これは一種の瞑想のようなものではないかと思っている。ブックオフで棚をじっくり見たあとは、頭の中が整理されるような感覚がある。

何冊かの本を買ってブックオフから出ると、太陽の光がまぶしい。にぎやかな街の様子を見て、「そうだ、自分は吉祥寺にいたんだ」と気づく。ブックオフにいるときはいつも深くブックオフの世界に潜り込んでいるので、自分がどの街にいるのかを忘れてしまう。

また現実世界に戻ってきてしまった。買った数冊の本を回復薬として使いながら、また明日から人生を戦っていかなければいけない。毎日の生活に疲れたり迷ったりしたら、またブックオフに来よう。別に弱ってなくても、元気なときもブックオフに来よう。ブックオフはどんなときでも僕らを受け入れてくれる。

※記事中の価格表記は2021年3月22日配信時のものです。現在の価格と異なる場合があります。

TEXT:pha
PHOTO:pha、ブックオフをたちよみ!編集部

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