
創業当時は学園祭のような熱狂が続いていた
――ブックオフが生まれたのは1990年。創業当初はどのような会社だったんですか?


橋本:そうだったね。

永谷:夕方からのシフトで私が出勤すると、「永ちゃん、これ運んで!」ってどんどん段ボールを積まれて。それをバックヤードに運ぶのが私の日課でした。

橋本:しょっちゅう「腕が痛い!」って文句言ってたよね。それを「なに甘えたこと言ってんの!」って私が怒るの。

永谷:そうそう、「ダンボール運んでるの永ちゃんだけじゃない!」って怒られて。飲み会で男が集まると、社長の坂本さん(※1)が「男性地位の向上を訴えるんだ!」と結託するくらい女性が活躍しているお店でした(笑)。
※1「坂本さん」
創業者の坂本孝氏のこと。現在はブックオフを離れ、「俺のフレンチ」などの飲食店を運営する「俺の株式会社」の取締役会長を務める。


橋本:新聞の折り込みチラシでスタッフを募集したら、集まったのがほとんど主婦と学生さんだったんだよね。その頃の専業主婦にはパワーがあった。

小金井:確かにそうですね。

橋本:家事をしても夫にあまり感謝されないのに、お店で働くと褒められてお金も稼げる。「こんなやりがいのある世界があるんだ!」と私もパートで入って、すぐ働く楽しさに目覚めました。
――主婦のみなさんを筆頭に頼もしいパートやアルバイトが多かったんですね。だからこそ創業4年で100店舗を超えられたと。

戸部:そう。当時から社員、パート・アルバイト分け隔てなく、同じ戦力として考える社風でしたよね。

小金井:全員で頑張ろう!という感じでしたね。

戸部:僕も入社後、あまり業績のよくない店舗で働いていたんですけど、取締役になっていた橋本さんが現れて、「あんたたち、このままじゃお店なくなるよ!」って、アルバイトの僕たちを本気で怒るんですよ。そのおかげでやる気になった。

小金井:わかります。私もアルバイトとして入社したんですけど、社員の人が「頼んだよ!」「期待してるよ!」とか絶妙に声をかけてくれて、気分が良くなるんですよね。それで「よっしゃ!頑張ろう!」という気になってしまう。「この売り場をどうにかしよう!」と夢中になるんですよ。


渋谷:僕が新卒で入社した96年はカオスでしたね。

小金井:どんどん店舗拡大を押し進めている時期で、他店舗への出荷作業やヘルプも多かった時期でしたからね。

渋谷:でも、頑張れば頑張るだけ売上などお店の繁盛につながったのでとにかく夢中になって働いていましたね。

有賀:スポーツをするように働いていましたね! 買い取らせていただいた商品をきれいにして、それを棚に出すという作業を一心不乱にやってた。当時は研磨機(※2)もなくて手でヤスリをかけてね。
※2「研磨機」
買い取った本の側面を磨いてきれいにする機械。


永谷:大抵、新卒で入社してすぐ店長になって、「経営者」という意識が強くなる。自分の店をより良くしようと、休むのがもったいないと思うようになるんですよね。

上田:大変だったけど、結果を出せばきちんと評価されてリターンも大きかったから、どんどん仕事にハマっちゃう。

橋本:たとえるなら、「学園祭の前夜」ね。みんなでワイワイいいながら時間を忘れて作業する。創業当初は各店舗で学園祭のような熱狂が、毎日続いていました。

スタッフのお店への愛着。それが急成長の原動力
――その後、2000年代になると一気に店舗が増加して、2005年には全国800店舗を突破しています。そんな短期間で成長できたのはどうしてなんでしょうか?

上田:やっぱり、橋本さんが店長を務めていた八王子堀之内店の存在が大きかったんじゃないかな?

戸部:そう、「出し切り」(※3)とか、堀之内店が編み出したノウハウがマニュアル化されたおかげで、安定して収益が出せるようになりましたよね。
※3「出し切り」
買い取った商品は、必ずその日のうちに加工して棚に並べるという鉄の掟。


橋本:実は堀之内店がオープンする前の2~3年、私、仕事が思うようにいかなかったドン底の時代だったの。そんな状態で1998年に「堀之内店を立て直せるのは、橋本さんしかいない!」と坂本さんに指名されて。

永谷:へえ〜そんな時代もあったんですね。

橋本:うまくいっていなかった分、これまで以上に張り切って仕事に取り組んだのよ。もう死に物狂いでやろうと、私、あのとき普通じゃなかったわ。
――八王子堀之内店はどんな店舗だったんですか?

橋本:初めて自社建設した2階建ての大型店で、モデル店舗になる予定でした。ところが当初、ものすごい大赤字になってしまって。それで私に声がかかったというわけです。

有賀:着任した直後は、どんな状態だったんですか?

橋本:まず2階に上がったら、買い取った本のダンボールの山。その山に登って、どんどん片付けていったら下から研磨機が出てきたの。ぜんぜん使ってなかったんですよ。

保坂:なかなかですね……。

橋本:しかもトイレではタオルの代わりに配布するはずの折り込みチラシで手を拭いているし、ゴミ箱にはブックオフの袋を使っているし。社員を含めてパートやアルバイトさんにも大切な販促物を無駄遣いしているという感覚がなかったの。


橋本:それで新任の私がやかましく注意したら、パート・アルバイトさんからものすごい反発にあってね。急に休んだり、辞めてしまうアルバイトさんもいて、少ない人数でどうやって商品を効率よく加工して棚に出すかを考えたの。それが、いまマニュアルに載っている動線設計。

有賀:へー、そうだったんですね。

橋本:それから、倍々に売り上げが伸びていってね。評判になって他店舗のスタッフや加盟店のオーナーさんたちが研修に来るようになりました。「堀之内学校」とか呼ばれてたわね。

戸部:私も研修に行って、衝撃を受けた。「店長ってこういうふうに働くんだ!」って目からウロコでした。

有賀:橋本さんがいるとパート・アルバイトさんの動きがぜんぜん違うんですよね。売り上げもアップするし。まさにお店づくりのカリスマ。真似できないと思いました。


上田:それにしても橋本さんは、いろいろと細かかった。僕は橋本さんが2号店(上溝店)の店長だった95年にアルバイトとして入社したんですけど、ある日の休憩中、店舗でカップラーメンにお湯を入れていたら、「買ったときにコンビニで入れてきなさい!」って怒られた(笑)。

橋本:だって、水道電気代もったいないじゃない!

永谷:私はコンビニで飲み物を買ったら怒られた。「お店の自販機で買いなさい!」って(笑)。

橋本:当然よ、自販機もお店の利益になるもの。私、パートのまま2号店の店長になったんだけど、当時は「粗利率」とか、まったく意味がわからなかった。ただ、自分で電卓を弾いてお店の利益を計算するようになって、節約が利益に直結するということを体で覚えたの。

小金井:店長になると、「とにかく他の店舗に負けたくない!」って気持ちになりますよね?

有賀:そうそう。毎月の定例会議で売り上げ上位店の店長が表彰されるんですけど、新人の頃はそれが憧れだった。「いつか自分も壇上に上がってヒーローになってやる!」って思ってましたね。

人を大切にする精神が、いまのブックオフをつくりあげた
――2010年以降もブックオフは挑戦を続け、トレカやホビー、スマホなどの取り扱いもスタート。いまではグループ全体で売上高800億円を超える企業に!なぜ、30年間も続けられたと思いますか?

橋本:多くのお客さまにご支持いただけたことが、最大の理由です。それに、ブックオフの志に賛同してくれた加盟店(※4)さんの存在が大きかった。加盟店さんの力がなければ、ここまで成長できなかったと思います。
※4「加盟店」
フランチャイズ加盟店のこと。現在、全国に約800ある店舗のうち、直営店と加盟店は半々。

有賀:加盟店さんは苦楽をともにしてきた同志ですよね。とくに創業当初、知名度も実績もない頃から参加してくれている加盟店さんには、本当に頭が下がります。


小金井:ブックオフには、コンビニの商品のように加盟店さんを縛るものがないから、ビジネスモデルを学んだあとは離脱してもいいはずなのに、多くの加盟店さんが契約を続けてくれていますよね。

橋本:昔から大切にしているのは、「義理、人情、浪花節」。モノやシステムで縛るのではなく、加盟店のオーナーさんと同じ目線で一緒に頑張ることで、心を通わせることができたと思います。

上田:戦友であり、運命共同体ですよね。

橋本:とくに創業当初はバブルが弾けた直後で、上からではなく同じ目線で生き残るためにどうすればよいか必死に考えました。

有賀:あと、「人財育成」もブックオフのキーワードですよね。

永谷:そう。この30年でブックオフのビジネスモデルと似た企業がいくつか出てきたけど、結局、本・ソフトが主力なのは、いまブックオフしか残っていない。見よう見まねではできないんですよね。きちんとした人財育成の仕組みや風土があって、はじめてビジネスとして成功できる。

橋本:うんうん。本当にスタッフを成長させよう、幸せにしようという思いがあったから30年やってこられたんだよね。この精神がなくなったら会社は終わり。今後も、このことをしっかり伝えていきたいですね。
――ところで、皆さんの経歴のなかで一番の思い出って何ですか?

上田:私は談合坂サービスエリアでの深夜会議かな。新人のころ、山梨県の店舗の店長になったんですど、しばらく赤字続きで……。それで閉店後、中央高速を飛ばして談合坂SAに向かうんです。そこに橋本さんが来てくれて。

橋本:そうそう、私も上溝店を閉めた後、高速を飛ばしてね。サービスエリアの一角で深夜、ふたりきりで相談して、また山梨と東京にそれぞれ戻っていくという。

上田:おかげで、つらい時期を乗り切ることができました。橋本さんからは仕事の厳しさ、人との向き合い方など本当にさまざまなことを教えてもらいました。


戸部:私は、万引き集団事件かな。都心のある店舗の店長をやっていたとき、「地下フロアでDVDを万引きしている3~4人のグループがいる」とアルバイトさんから知らせが入って。それで現場にいったら、そいつらが逃げるどころか向かってきて、私を取り囲むんですよ。
――すごいピンチ!

戸部:「やばい!やられる!」って思ったら、いつの間にかホウキなどの武器を手にしたパートさんとアルバイトさん15~16人がまわりを取り囲んでくれていて、助かりました。あってはならない事件なんですが、スタッフとの絆を感じられて、うっすら泣いてしまいました。

「次の10年」に向けて、伝えたいこと
――最後に、次の10年に向けて自分がチャレンジしたいこと、後輩に挑戦してほしいことを一人ずつ教えてください。

小金井:私は「海外展開」。成長の場を海外に広げて、どんどんチャレンジしていきたい。

渋谷:「企業再建」。業績不信の企業をブックオフで請け負って再生していくという事業を行いたいと思っています。

有賀:私は「事業の幅を広げる」ですね。汗をかいて頑張って、人として成長できる新しい事業をたくさんつくっていきたい。


戸部:僕は「真剣な時間を仲間と過ごしてほしい」ですね。自分たちがそうだったように、本気になって仲間と働いて未来について語って、充実した時間を過ごしてほしい。20~30代を大切に生きてください。

上田:「リユースという枠を超えたビジネスにチャレンジしたい」。あらゆるモノに対して価値をつけられるのがウチの強みだと思う。古本屋でもリユース業でもない、新規事業を展開して、お客さんに新たな価値を提案していきたいですね

永谷:私も「リユース業以外のビジネスにチャレンジ」が目標です。新しいビジネスを生み出して、社員がブックオフを辞めることなく、さまざまな世界に挑戦できる環境をつくりたいと思います。

保坂:「創りなおす気持ち」。いまは変化の激しい時代ですから、現状にあぐらをかいていては次の30年はありません。後輩たちには全員が危機感をもって、店舗設計も、商材も、オペレーションも、すべて新たにつくる気持ちで挑戦していってほしいと思います。


橋本:私は「女性社員の育成」。もう引退した人間なので偉そうなことは言えないけど、女性社員にいろんなチャンスを与えてほしい。すごい力をもっている女性がたくさんいるんですよ。その人たちにどんどん機会を与えてください。私ができなかったことを、次の10年で叶えてほしいと思います。

2020年に創業30周年を迎えたブックオフ。その裏側には、社員もアルバイトも加盟店も一体となって奮闘してきた背景がありました。20年以上も前の出来事を、まるで昨日のことのように熱っぽく語る社員たちの姿が印象的でした。
TEXT:相澤良晃
PHOTO:WADAYA
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永谷:とにかく女性が強かった。1号店は神奈川県の相模原千代田店。ここにいる橋本さんをはじめ、パートやアルバイトの主婦の方々がお店をまわしているという感じで。