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地方にはライブハウスや劇場などの娯楽施設が少ないため、都会とは文化的な格差が生じやすい、という現状があります。書店も例外ではなく、近年新刊書店は地方からどんどん姿を消しているのです。
このような格差を補完するのがブックオフだった、と考える地方出身者も少なくありません。
今回はブックオフへの想いを同じくする地方出身の3名を迎えて、ブックオフについてトークセッションを実施しました!

【今回お話を伺った皆さん】

登壇者一覧

三宅香帆
高知県出身、京都府在住の書評家。
代表作は『文芸オタクの私が教えるバズる文章教室』(サンクチュアリ出版)『人生を狂わす名著50』(ライツ社)など。

藤谷千明
山口県出身、東京都在住のライター。
代表作は『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)など。

ジョナゴールド
青森県弘前市出身・在住の歌手。
2015年にアイドルグループ「りんご娘」のメンバーとしてデビュー。 2022年4月よりソロ活動中。2024年5月、1st EP「Hi-Score」をリリース。

ヒラギノ游ゴ(聴き手)
東京都出身・在住のライター。
音楽・スニーカー・お笑い・ジェンダーなどにおいて幅広い知識を持ち、軸のある文章で読者を惹きつける。『ダ・ヴィンチ』『クイック・ジャパン ウェブ』『MUSICA』などでコラムやレビュー記事などを手掛ける。

書店が少ない街のリアル。みんなブックオフに通ってた!

皆さんの地元はどんな街でしたか?

藤谷さん

私が生まれたのは山口の海の近くにある小さな街で、ショッピングセンターがある栄えたエリアからは10kmくらい。最寄りの駅前には本屋さんがあったんですが、小学生の時になくなっちゃいました……。以来、「地元」と呼べる場所に本屋さんはなかったです。

弘前(青森県)は中心部の商店街に紀伊國屋とジュンク堂があったんですが、紀伊國屋は5年前に、ジュンク堂は2024年4月に閉店することになっちゃって。個人書店がオープンしたりもしていますが、街の中心地から大型書店はなくなっちゃいました。

私の地元は高知の田舎で、本屋さんは家の近くにあるにはあったんですけど、小中学生にとっての新刊本って高かったので、もっぱらブックオフに入り浸っていた子ども時代でしたね。

三宅香帆さん

改めて、リアルの本屋さんの存在ってとても大きいなと思います。「ちょっと立ち読みしてから買う」ができるの、めちゃくちゃメリットだと思うんですよね。他の商品だとちょっと使ってみてから買うかどうか決めるってなかなかできないじゃないですか。電子書籍でも試し読みできることがありますけど、最初の数ページだけってことが多いし。

紙だと「パラパラめくってみる」ができるんですよね。そうやって自分に合う本なのかを確かめる作業や、目当ての本以外にどんなものがあるのか見てまわる時間が好きです。本屋さんがなくなると、そういう時間ごとなくなってしまうような気がして寂しいなって。

高校時代、ロードサイドのブックオフに自転車を漕いで通い詰めていたのは、そういう過程も含む出会いを求めていたからかもしれないです。

弘前にもずっとブックオフがあって、私も子どもの頃よく友達と遊びに行ってました。本屋さんって当然、本を買いに行く場所なんですけど、ブックオフは「遊びに行く場所」ってイメージが強かったですね。そんな中でも、今でも大切にしている本との出会いもありました。

弘前城東店
ジョナゴールドさんが通っていたという、BOOKOFF 弘前城東店

ブックオフは「地方を楽しむため」の文化の供給地

都会の人と関わっていく中で感じた「地方との違い」みたいなものってありましたか?

「うちは東京って言っても山手線の外側だから」みたいなことを言われた時とか(笑)。だって山手線の内側も外側もキー局は全部映るじゃん、渋谷とか原宿まで電車ですぐじゃんって。

「放課後によく池袋のジュンク堂に行っていた」とか。

同じく中国地方から出てきた友達がふと「こんなに情報の豊かなところで育った人たちには勝てないよね」と言うのを聞いて(それは商業施設や美術館、ライブハウスほかいろんな施設が豊富なのもそうですけど)本屋もそうだよな〜と思いました。

ブックオフも地方と都会で品揃えが違いますよね。京都は学生が多いのでいろんな分野の学術的な専門書が多かったです。子どもの多い土地は絵本や児童所が豊富だとか、ブックオフは街の色が出るって言いますよね。私は旅先でブックオフに入るのが好きなんです。

少し前にXで旅先でブックオフに行く/行かない論争が起こってましたね。

ブックオフの本棚を見ればどんな土地かなんとなく伝わってくる気がして楽しいんです。その地方の大学の赤本があったりするとなんともいえずグッときますね。そういう本が土地の中でサイクルしていくのがブックオフの一つのおもしろさなのかなと思います。

そういえばこの間、立川市(東京都)のブックオフに行ったんですけど。ギターを背負った高校生くらいの子がBOØWYのCDをじっくり吟味してて。新品ばかり取り扱うCDショップだとまず見られない光景ですよね。あれはいい風景でした。

布袋さんでくじけずにギターを続けてほしい。

高知は全国公開って言ってるのに来ない映画がよくあるんです。「一部地域を除く」の「一部地域」に当てはまる土地なんですよね。漫画雑誌も1日か2日遅れてくる。都会にいるとそういうリアルさって伝わらないんだろうなと悲しくもなるけど、都会の人にそれを言ったとして、そんな責められても、となると思うし。

ジョナゴールドさん

私の地元の同世代には遊ぶ場所がどんどん減っていくことに危機感を持ちながら「まあ、AmazonもNetflixもあるし」と適応していってる子が多い印象です。東京と比べて何もない、つまらないって思い続けている子もいて。「この街には何にもない」って思いながら暮らしていくことは、その子にとっても街にとっても可哀想だと思います。

一方的に地方が劣っているという話にはしたくないですよね。ブックオフが私にとって大きかったのは、今流行ってるもの以外もたくさん置いてあること。だから何十年前に出版された小説や、ずっと前に連載が終わった漫画と時代を超えて出会うことができた。それが今確実に、書評家という仕事に生きていると思います。

今はだいたい週に何日かを東京で過ごす生活なんですけど、東京と青森の違いをおもしろいなと思えてるんです。どっちがよくてどっちかがだめなんじゃなく。東京みたいになってほしいわけじゃなくて、青森は青森としていいよねって思いたい。

というと?

ジョナゴールドさん

情報の溢れた場所で暮らしてる人が青森に来たらおもしろいと思うんですよ。クリエイティブな仕事をされてる方があえて都会を離れたりするじゃないですか。それぞれを別々におもしろがれるように、青森は青森である必要があると思うんです。みんながそう思えるために、文化を摂取できるブックオフのような場所があることは重要だと思います。

ふるさとブックオフは、地方に文化をもたらすコミュニティ

皆さん、もし地元にブックオフがなかったら自分はどんな子どもだったと思いますか?

ちょっと想像もつかないですね……。少なくとも今の仕事はしてないと思います。

すごく暇だっただろうなとは思いますね。あと、同世代の他の子たちのことが気になります。子どもの頃、長期休みには開店と同時にブックオフに入店みたいな状態だったんですけど、自分以外にもそういう子が何人かいて。お店の外で開店を待ちながら「宿題やった?」なんて雑談をする仲になったりしてたんですよね。

いい話……。

ブックオフがなかったら、あの子たちはどうなっちゃうんだろうって。親の目が届く範囲で安全に遊べる場所としてもブックオフって貴重すぎて、ない状態があまりイメージできないですね。

そうですね。小学生の頃とか、親にどこへ出かけるか伝えるとき「プリクラ撮ってくるね」よりも「ブックオフ行ってくるね」のほうが断然言いやすかったんです。それはけっこう大きい気がしていて。

プリクラだと不安がられるんですね……?

プリ機があるゲームセンターって繁華街にあるし中高生が多い場所だから、小学生だとちょっと緊張する空間なんですよね。

その点ブックオフはホーム感があるというか、「あの人今日もいるな」みたいな感じで、よく見かける人になんとなく親近感を抱いたりしてました。

藤谷さん

私それでした。地元のコンビニで「すみません、よくブックオフにいましたよね……」と声をかけられたことがあります。

(笑)。そういうふうに、地元のブックオフは単純にお店ってだけじゃなく、寄合所というか、コミュニティみたいになっていた気がします。

まさにそういう、本を売るだけでなくコミュニティを作ろうという試みを今ブックオフがやっているんです。

【突然カットインしてきたこの人は……】

平居さん

リユースECセンター運営部 販売企画グループ
平居宏朗さん
埼玉県生まれ。2016年ブックオフに入社。本が大好きで、これまでに読了した本は1万冊以上。自身も書店のない地域で生まれたが、読書家だった両親の蔵書や図書館の本などを読んで育った。2022年よりふるさとブックオフにプロジェクトリーダーとして関わる。推し本は隆慶一郎『死ぬことと見つけたり』(新潮文庫)。

登壇者一覧
実は……
登壇者一覧
最初からいました!

ふるさとブックオフは、本屋さんに限らず新規開店することすら難しい土地で、空きスペースをお借りしてブックオフの本棚を置かせていただくプロジェクトです。1号店のある西和賀町は、岩手と秋田の県境で、積雪量が多く、クマも出るような土地。現地の水泳協会が運営する屋内プールの一角をお借りしています。

2023年8月、岩手県の西和賀町にオープンした「ふるさとブックオフ」。
開店と同時に、地元の子供たちよが押し寄せました

私たちの調べによると、書店は2000年には20,000店を超えていましたが、2021年には半分以下の8,789店に減少。全国1,741市区町村のうち456の市町村が書店ゼロだといいます。3分の1近くの自治体に本屋さんがないわけですね。

本屋さんがない街ってそんなに多いんですね……。

平居さん

私も本屋さんがない田舎街で生まれたので、10代のある日ロードサイドにブックオフができたときの感動は大変なものでした。同じような体験を地方の皆さんに提供したいという気持ちを原動力にしています。

また、この企画を進めるにあたって、三宅さんや藤谷さんがこのメディアに書いてくださったエッセイ(後述)のほか、地方出身の方の声が後押しになったのは間違いありません。地方における文化的な飢えを癒やす存在としてブックオフが貢献できているのなら、この企画はきっと意義あるものになると。

過疎の進んだ土地だと、「閉店」はあれど「新規開店」のニュース自体が少ないじゃないですか。だから新しくお店がオープンすること、それ自体がうれしいことなのではないでしょうか。

先ほど皆さんがおっしゃっていたように、ただ本が買える場所ではなく、子どもたちがいつもいて会話が生まれる場所にもなってきているようです。

図書館や書店よりずっとカジュアルに行けるのが大きいと思います。子どものために大人が選んだ本じゃなく、いい意味で雑多。自分の好きなものを見つける楽しさが味わえるわけで。子どもたち、うれしかっただろうなと思います。

まとめ。都会を基準に地方を語らないために

地方出身の友人たちが「東京に出てきて本当によかった」と言ったあとに続けて地元を悪く言うのを聞くと、複雑な心境になります。その子個人の人生としては東京に出てきてよかったんだろうと思う一方、その子の地元は言われっぱなしで、ずっとそこで生きていく人たちがいるんですよね。そこに救いがあってほしい。

私自身、地元に戻って暮らしてないという時点で、今住んでいる東京に仕事や人間関係の面でアドバンテージを感じてるのだろうなと思います。ただ、地元は本当にいいところ。海がきれいで、気候がのどかで。

私の地元の場合、伝統的なものを守っていこうっていう意識は強いんですよ。伝統工芸品とか、歴史的な建造物とか。反面、新しいものが入ってきにくい部分もあります。ライブハウスが少なくて、新しい音楽を生で聴ける場所がすごく限られてる。こういう仕事をしているとすごく悔しいです。

ジョナゴールドさん

今青森にいて、盛り上げようと活動している人たちにはくじけないでいてほしいです。自分も含めてですけど。都会とのギャップに打ちのめされず、原動力に変えていけるような人が地方にも増えていったらいいなと思います。

ブックオフに通っていると、棚の中から自分の興味あるもの、好きになれるものを見つけ出す感度が磨かれますよね。さっき言ったことともかぶるんですが、私、書評家としての自分の売りは、同世代があまり読んでいないような古い本を読んでいることだと思っているんです。それは、自分の興味をのびのびとブックオフで深めていった時間があるからなのかなと。

そういう強みはもしかしたら、都会に生まれていたらあんまりなかったのかも、と思うんです。文化的なアクセスがよくない土地で、それでも本が読みたいと強く思っていたから培われた能力なんじゃないかと。

私も少し古いCDをブックオフで知って聞いてたので、「若いのによく知ってるね」と言われることが多いですね。

都会を基準にして違いを強調し続けてもその先には何もない気がして。「地方はもうだめ」で終わらすのはもったいない。単純に恵まれているかいないかという価値基準とは違うところに、ジョナさんが言うようなおもしろがる余地があるのかなと思います。

ふるさとブックオフとは
ブックオフに勤める有志が始めた、本の委託販売プロジェクト。この記事で語られているように「その地方の良さ」を満喫できるように、本を通じて文化を供給する役目を担えたら、と願っています。

西和賀町のふるさとブックオフ

1号店(西和賀町)
住所:西和賀町湯本30 地割82 -1
営業 :10時~18時(季節により変動あり)
休み :月曜(祝日の場合は翌日)

2号店(木曽岬町)

住所:三重県桑名郡木曽岬町大字西対海地251
営業 : 10時~18時(火曜~木曜)、12時~20時(金曜)、9時~17時(土曜・日曜・祝日)
休み :月曜、毎月最終木曜

TEXT:ヒラギノ游ゴ
PHOTO:井川拓也

【藤谷さん、三宅さんによる「地方×ブックオフ」エッセイ】

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