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目次

ブックオフの100円棚は、永遠の宝箱

ブックオフといえば、値段が100円均一で設定されている「100円棚(※)」を連想する方も多いのではないでしょうか。お金がなかった学生の頃、100円棚で好きな作家の文庫本を探したり、たまたま買ってみた100円本が最高におもしろかったり……。

そんな宝箱のような100円棚を、芸能界きっての読書家として知られるラランド・ニシダさんと歩いて、テーマごとにおすすめの本を選んでもらいました。

※現在の値段設定は110円(税込み)ですが、この記事中では「100円棚」と表記します。

ラランドのニシダさん
ラランドのニシダです!

ラランド・ニシダ
2014年に上智大学のお笑いサークルで結成された漫才コンビ「ラランド」のメンバー。読書家として知られ、講談社『小説現代』や KADOKAWA『小説 野性時代』で小説を執筆するなど、幅広く活動を行なっている。また、2021年2月に個人事務所・株式会社レモンジャムを設立し、相方のサーヤさんが社長、マネージャーの橋本さんが副社長に。ニシダさんが正社員となった。

「アメトーーク!」読書芸人への出演や、Webでの読書エッセイの連載を持つなど、本に関する仕事も多いニシダさんは、学生時代に100円棚をどう使っていたのか。そして、一体どんな本を選ぶのでしょうか?

ニシダさん、どんな本を読んでますか?

――まずは漫画の100円棚から見てみましょうか。

あっ! 『タッチ』が100円だ。『サザエさん』もある! これが100円で買えるのは熱いですね。

漫画を読むニシダさん

――有名な大ヒット作もたくさんありますね。

『キン肉マン』だ! おじさん芸人のみなさんって、例え話でキン肉マンをよく引き合いに出すんですよ。だから、デビュー前にそれを理解しようと思ってブックオフに買いに来た覚えがありますね。

――芸人さんはそんなに『キン肉マン』が好きなんですか?(笑)

40代以上の芸人さんは、みんな例え話で『キン肉マン』の話するんです。「ロビンマスクが……」とか(笑)。でも、実際に読んだらおもしろかったし、おじさんたちと過ごすQOLも上がったので、ブックオフで安く買えてよかったですよ。

――ニシダさんはどんな本を読むことが多いですか?

小説、漫画、新書など色々な本を読みますが、純文学を中心に読んでますね。

――ラランドの公式サイトによると、年間100冊もの本を読まれるとか。

はい。読書は自分にとって最高のエンタメです。

――勉強とか教養じゃなく、あくまでエンタメ。

漫画を手に取るニシダさん

そう、「楽しいから読んでいる」だけなんですよ。むしろ「本を読んだら頭が良くなる」とか、「本を読んで道徳的な人間になる」とか、そういう考えはクソだと思っているくらい(笑)。

――(笑)。

自分にとって読書は、映画やドラマ、YouTubeを観るのと同じカテゴリで、その中でもいちばん楽しいものって感じです。

――本を好きになったきっかけは?

子供の頃に友達がいなかったので、ずっと本を読んでいたんですよ。小学校の先生が読書好きな方だったので、色々おすすめしてもらって読む本の幅が広がっていきました。

――現在はどんなタイミングで読書していますか?

電車などの移動時間とか寝る前ですね。あと休みの日には集中して読みます。移動時間は常に4冊くらい文庫本を持ち歩いていて、その中から気分に合う本を読んでますよ。

漫画コーナーを見るニシダさん

――その4冊はどんな本を持ち歩いてるんですか?

小説と評論が中心ですね。

――寝る前に本を読むと、眠れなくなったりしないですか?

次の日の入り時間が昼過ぎだと、朝の5〜6時くらいまで読んじゃうことはよくありますね。コロナが猛威を振るっていた時期に『ハリー・ポッター』シリーズを読み直してたんですけど、朝まで夢中で読んで仕事に遅刻しちゃいました(苦笑)。

――あはは。ひさしぶりに読んだ『ハリー・ポッター』はどうでした?

正直、小学生の時は「こんな分厚い本を読めたぞ」って感じで、内容のおもしろさより“トロフィー的”な感じが強かったんですよ。でも、大人になって読むと内容に集中できておもしろかったです。それと映画版ではそんな感じないんですけど、ハリーの父親はクズってことに気が付きましたね。

――でも、たしかにトロフィー的な読書ってありますよね。

「この作家は読んだら自慢できるぞ」っていうのありますよね。ここにあるドストエフスキー『罪と罰』なんてまさにそんな作品。3回くらい挑戦したけど全部挫折しました。でも、挫折も読書なので。

「罪と罰」を手に取るニシダさん

――「挫折も読書」、名言ですね!

あまり本を読まない人は「最後まで読まなきゃ」って思いがちですけど、読書家も全然挫折しますからね。

――最近は電子書籍も一般化してますが、やっぱり紙の本が好きですか?

漫画はかさばるので電子書籍で読むことが多いんですけど、小説は書籍で読みますね。やっぱり紙のほうが馴染む感じがあって。長年の読書習慣が染み付いているんだろうなって思います。

――積読(=買ったまま読んでいない本を積んでいくこと)ってしてますか?

多いですね。むしろ積んでないとダメな感じがするし、積読があるからこそ読めるみたいな感じもあります。

――それは、読むべき本が新しく買った本に押し出されてくる感じですか?

まさにそんな感じです(笑)。

ブックオフで感じた「自分は、ひとりじゃない」

本を選ぶニシダさん

――ブックオフでの思い出ってありますか?

大学生の頃は最寄駅に大きいブックオフがあったので、よく行っていましたね。学生の頃ってお金ないから、それこそ100円棚にはお世話になってましたよ。

――学生時代によく読んでいた作家さんは誰ですか?

太宰治と小川洋子さんですね。どちらも今も大好きです。

――太宰治といえば純文学の代表的作家ですよね。純文学の魅力ってどんなところだと思いますか?

うーん……何回も読み返したくなるところですかね。

――なるほど!

エンタメ小説ってネタバレされたら終わりみたいなところがありますけど、純文学はそうじゃないですよね。太宰治だと『畜犬談』という短編が特に心に残っていますね。

――どんな作品ですか?

犬が嫌いな主人公が野良犬に懐かれて、東京に移り住むことになっても犬にずっと付き纏われるんですよ。仕方なく薬屋みたいなところで毒を買って肉に混ぜて与えるんですけど、全然毒が効かなくて犬は結局戻ってきちゃうって話です。

――おお……!

すごく私小説的で「実話なんじゃないか?」という内容なんですけど、最後に主人公の小説家が「文学に携わるものは弱いものの味方じゃなきゃダメなんだ」って感じのことを言うんですよ。すごく太宰治のいいところが出ている作品だと思いますね。

本棚を眺めるニシダさん

――それは心に残りますね。

めちゃくちゃいいんですよ。ずっと心に残り続ける作品ですね。

――小川洋子さんについても教えていただけますか?

中学生の時に『妊娠カレンダー』という作品を読んでハマったんですけど、とにかく文章が美しいんですよね。言葉選びが綺麗だし、情景描写も美しい。特に好きなのは『密やかな結晶』っていう作品です。

SFっぽい作品なんですけど、おすすめです。あっ、ちょうど太宰治コーナーだ。

太宰治コーナーの本棚

――100円棚は「こんな作品も100円で買えるんだ」っていう、お宝発掘の楽しさも醍醐味ですよね。

特に学生時代ってお金の面でチャレンジすることが難しいじゃないですか。でも100円ならできる。それが本当にありがたかったですよ。

――誰もが共感できるというか、一度はお世話になったことがあるんじゃないかと思いますね。

ブックオフの棚にある本って、基本的に誰かが一度は読んだ本じゃないですか。

――誰かが売った本ですもんね。

たまに「これは俺しか好きじゃないだろうな」と思っていた本が棚にあると、「わかってるやつが近所にいる」って気持ちになれてうれしいんですよ。

――(笑)。間接的なコミュニケーションになっているわけですね。

「自分はひとりだと思っていたけど、この本の良さがわかるやつもいるんだ」って(笑)。

テーマ別、ニシダさんが100円棚で見つけたおすすめ書籍

本を持ったニシダさん

最後に紹介するのは、ニシダさんが100円棚で見つけた本の数々。ニシダさん自ら3つのテーマを作って、それにぴったりな本を選んでいただきました。ニシダさんのコメントと合わせてご覧ください。

1.暇を持て余して立ち読みしてる大学生に手に取って欲しい本

そのまんまの意味で、ぜひ暇な大学生に読んでほしい本たちです。

「ミノタウロスの皿」と「人間の建設」の書影
左:藤子・F・不二雄『藤子・F・不二雄[異色短編集]1 ミノタウロスの皿 』(小学館)
右:小林秀雄、岡潔『人間の建設』(新潮社)

藤子・F・不二雄『藤子・F・不二雄[異色短編集]1 ミノタウロスの皿 』
『ドラえもん』で知られる藤子・F・不二雄が残したSF短編集の中でも特に人気の一冊。

これは僕が実際に暇な学生時代に読んだ本です。正直、当時の僕はよく分かってなくて、藤子・F・不二雄さんを『ドラえもん』の一発屋だと思ってた節があったんですよ。でも、これを読んでレベルが違う、ものすごい作家さんなんだと気がつくことができました。これだけのことを考えた上で、僕らに合わせて『ドラえもん』を描いていてくれていたんだなと。昔の作品ですが、まるで今の話のように読むことができるはずです。

小林秀雄、岡潔『人間の建設』
著名評論家である小林秀雄と、世界的な数学者岡潔による、学問、芸術、酒、アインシュタイン、俳句、本居宣長、ドストエフスキーなど数々のテーマについての”雑談”集。

文系と理系それぞれのめっちゃ頭いい人が2人で話してるっていう、それだけの本なんですけど「勉強カッケー!」「学問カッケー!」と思える本なんです。「めちゃくちゃ勉強すれば、こういうかっこいい雑談ができるようになるのかも」って、大学生が勉強するモチベーションになる一冊だと思います。

2.教科書に載ってたけど、もう一回読んで欲しい本

「子供の方が感受性豊か」みたいな考え方もありますが、大人になってからの方が寄り添ってくれる本が絶対にあります。だから「教科書で読んだからいいや」ではなく「もう一回読んでみよう」って思ってくれたらうれしいです。

汚れつちまつた悲しみに」と「李陵・山月記」の書影
左:中原中也『汚れつちまつた悲しみに…… 中原中也詩集』(KADOKAWA)
右:中島敦『李陵・山月記』(新潮社)

中原中也『汚れつちまつた悲しみに…… 中原中也詩集』
明治から昭和にかけて活躍した詩人・中原中也の詩集。

中原中也って「汚れっちまった悲しみに」の一発屋だって思ってる人が多いかもしれませんが、そうじゃないんです。この詩集に収められた作品は攻めた内容のものも多いし、海外文学の引用を入れたり、急に横文字を入れてきたりするのもかっこいい。100年近く前の人の作品とは思えないですね。好きな作品が必ず一つはあると思います。

中島敦『李陵・山月記』
1900年代前半に活躍した小説家・中島敦によるデビュー作。唐代に詩人になる夢に敗れて虎になった男が、自らが辿った運命を友人に語るという不思議な物語。

漢文っぽい感じで、読みづらいイメージがあるかもしれませんが「もっと一文一文深く理解しよう」と思うと、かなり深く没入できる作品です。特に才能についての絶望感や物悲しさみたいなものは、大人になってから読んだ方が切実に感じ取れると思います。

3.本棚にあったら好きになっちゃう本

恋愛対象でもいいし、友だちでも構わないんですけど、本棚にこれがあったら「その人のことを好きになっちゃう。」って思う本を集めました。

「もの思う葦」「坂の上の雲」「人のセックスを笑うな」の書影
左:太宰治『もの思う葦』(新潮社)
中央:司馬遼太郎『坂の上の雲』(文藝春秋)
右:山崎ナオコーラ『人のセックスを笑うな』(河出文庫)

太宰治『もの思う葦』
太宰治の初期から死の直前の作品までを含む、アフォリズム、エッセイ集。

いい意味でも悪い意味でも太宰治の癖が詰まった作品です。太宰治をだいぶ読んでないとこの本にはたどり着かないと思うので、これが本棚にあったら「おっ」と思っちゃいますね。

司馬遼太郎『坂の上の雲』
NHKでドラマ化もされた、明治維新から日露戦争勝利までを司馬遼太郎が描いた歴史小説。

自分はそんなに歴史小説読まないからこそ、司馬遼太郎を読んでいるというだけで「ちょっと好き」って思ってしまうというところがあるのかも。そして、これは実際に何回か読もうとして挫折した本なんですよ。自分が読めない本を読んでいる人は「いいな」って思います。

山崎ナオコーラ『人のセックスを笑うな』
第四十一回文藝賞受賞作であり映画化もされた、19歳の少年と39歳女性の恋愛を描いた小説。

ほとんどの人はこの作品を映画で見るから、この本を持っている人って実はあんまりいない気がするんです。本棚にこれがあるってことは、あえて書籍で読んだってことだと思うんですよね。大人になってから読んだのかな? 実家にあったのかな? とかいろいろ想像して、なんか「いいな」と思いますね。

<ニシダさんのおすすめした100円棚の本一覧>

ニシダさんのおすすめした100円棚の本一覧

思い出の一冊や、ずっと気になっていた一冊が見つかるかもしれない100円棚。ブックオフに訪れた際には、ぜひ100円棚を覗いて最高の本を漁ってみてください!

[今回取材したお店はこちら]
BOOKOFF SUPER BAZAAR 西友大森店

BOOKOFF SUPER BAZAAR 西友大森店

西友大森店は本が充実! 100円棚はもちろん、話題作やお手頃価格のコーナーなど見どころ満載です。

住所:東京都品川区南大井6-27-25 西友大森3F
電話:03-5753-4472
営業時間:10:00~22:00
HP:https://www.bookoff.co.jp/shop/shop20508.html

【ブックオフの本棚の深淵に触れる記事はこちら】

TEXT:照沼健太
PHOTO:井川拓也

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