週に1度はブックオフに行くというワインバー店主で作家の林伸次さん。よく恋愛や美容の棚を見るそうですが、いったい何をチェックしているのでしょうか。また、ブックオフに売られている自著についても綴ります。

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林伸次の写真

林伸次

作家、ワインバー「bar bossa(バールボッサ)」店主

1969年、徳島県生まれ。レコード屋、ブラジル料理屋、バー勤務を経て、1997年にbar bossaをオープン。その傍ら、WEBや雑誌などの幅広いメディアで恋愛や音楽などのジャンルで執筆活動を行う。近著に『大人の条件 さまよえるオトナたちへ』(産業編集センター)、『なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか』(旭屋出版)など。

たくさん並ぶのは多くの人に支持された本

僕、渋谷でワインバーを24年間もやっているのですが、1週間に1回くらいは、カウンターで女性のお客様から、「出会いがないんです。どうすればいいと思いますか?」とか「誰か良い人がいたら紹介してください」とかって相談されるんですね。

一応大都会の渋谷のバーでそんな言葉、おかしいですよね。出会いの機会は街中にあふれているはずです。でもこの「出会っているはずなのに、出会いがない」という現象、現代の大問題なんですね。

それで、「じゃあ趣味サークルに行ってみたらどうですか?」と提案してみたり、「1ヶ月に1回は知らない人と食事に行くって決めるのが良いみたいですよ」って勧めてみたりしていて、そういうことを文章にしていたら、いつの間にか連載の話が来たり、本を出したりして、「恋愛コラム」や「恋愛相談」の原稿を書くのが仕事になっていました。

でも僕自身は、51歳で8歳年上の妻と32歳の娘がいる、恋愛なんてしばらくしていない普通の中年男性でして、「今の婚活がどうなっているのか」とか、「マッチングアプリで出会うことってどういうことなのか」とかってことを全く知らないんです。

そういう情報ってもちろんネットにもたくさんあるのですが、申し訳ないけどネットで入手できる情報って、「噂や憶測」があったり、「不安にさせて、クリックさせて次のページに飛んで入会させる」っていうパターンもあったりと、まあ色々なんです。

そんなときに頼りにしているのは、書籍です。僕、小さい頃から読書が大好きで、図書館も街の古書店も新刊書店も大好きなんです。なかでも、世間で話題になって結構売れた「婚活本」や「もっとモテる本」や「恋愛心理本」が簡単に入手できる書店がありまして、それがブックオフなんです。

BOOKOFF吉祥寺駅北口店
林さんがよく行くBOOKOFF 吉祥寺駅北口店。ご本人に撮影してもらいました。

僕、20代前半に某大手中古レコードCDショップで働いていたことがありまして、要するに「中古ソフト市場」でたくさん出回っている商品って、「かつてすごくたくさん売れた商品」なんです。中古CDショップに某国民的アイドルなんかのCDがたくさん在庫してありますよね。あれって、「かつてみんながすごく支持して買ったから」なんです。

それと同じ法則で、ブックオフにたくさん並んでいるっていうことは、「かつてたくさんの人が買った」って証拠なんですね。

僕が、恋愛コラムを書く必要にせまられて、「何か使えるネタがないかな」ってブックオフに行きますよね。それで、110円から220円のコーナーに行って、美容ダイエット、恋愛、生き方の棚の前に立って、目に付いた婚活の本や、「心から綺麗になれる」っていう本や、「モテるには」っていう本を、10冊から20冊くらい買いだめするんですね。20冊買っても、5,000円にいかないんです。

それで自宅に持ち帰り、時間を作って、片っ端から飛ばし読みと言いますか、チェックするんですね。

そしたら、例えば婚活本の中に、「最近のお見合い写真は加工が出来るので、本当に会ったときに、『この人写真と違う』という不満が多い。しかし、写真と違っていても、初対面の時にずっと笑っていると、『写真と違っても問題ない』と感じる場合が多い」って書いてあったりするんですね。

「これ、何かで使えそう」ですよね。そしたらその部分をメモで書き抜いておいて、何かのコラムの冒頭に使って、「初対面で笑う効果の話」に持ち込むことが出来ます。

あるいは、その話をカウンターでお客様にちょっと振ってみたりするんですね。そしたら、「僕のマッチングアプリのプロフィール写真は、全部、友達と一緒にいて、笑っている写真にしているんです。そしたら女性からのアクセスがグンと増えるんです」とかって教えてもらって、「その話、原稿に使って良いですか?」って許可を得て、「これはさらに原稿が深まるかも。テーマは第一印象とプロフィール写真と笑顔かな」って繋がるわけです。

「美容・ダイエット」のコーナーは、必ずチェックするそうです。

図書館という選択肢もありますが、図書館ってそんなに柔らかい本を揃えられていないと僕は思います。

新刊書店にはもちろんたくさん最新の婚活本や恋愛本がありますが、どれが人気なのか、どの本を本当に婚活しているみんなが支持しているのかっていうのが、あまりわからないし、やっぱり資料としては高いんです。僕の印象では、使えそうなネタって5冊に1ヶ所くらいでして、20冊3万円でネタ4つだと、あまり合わないんです。

それで、週に1回はブックオフに行って、美容、生き方、恋愛の棚の前に立ち、「そうかあ。今は愛されたいって本が売れてるんだ。みんな愛されたいってタイトルに弱いんだなあ」とか「ピンク色の本が多いなあ。やっぱり恋愛についての本はピンク色が鉄則なのかなあ。あ、水色の本だと内容が少しさわやかになるんだ」とか考えながら、本をカゴに入れています。

そうなんです。ブックオフって、コラムを書くときに、今どういう本が求められているのかという市場調査の現場としても優れているんです。図書館は司書さんの意思が入るし、新刊書店は書店員さんや取り次ぎ出版社の意図が入ります。でもブックオフの場合は、「みんなが実際に婚活に利用するために買った本」だから、リアルなんです。

店内の写真
カバーの色もチェックする林さん。そう言われてみると、ピンクの背表紙が多いような気がします。

ブックオフで出会った自著に思うこと

話は突然自分のことになるのですが、僕、2013年から毎年1冊は本を出してまして、7冊もあるんですね。7冊って多いですよね。さらに僕、ブックオフって週に1回は行ってるし、知らない街でブックオフを見かけたら、すぐにふらっと入るんです。

でも、僕の本、2回しか見たことないんです。1回は今はなき渋谷センター街店で2冊あって、どちらも500円でした。売れないと気になるんです。他の恋愛本はどんどん消えていくのに、僕の本はずっと残っているんです。

「500円、高いかなあ、隣にあるはあちゅうさんとか林真理子さんの本を買っちゃうよなあ。林伸次って誰? 知らない、だよなあ」とか……ほんと気になるんです。

ブックオフにあるってことは、前にも書いたように、「かつてはそれなりに売れた本のはず」と自分に思い聞かせながらも、「売れないなあ」と気になるわけです。

ブックオフで僕の本をもう一度見かけたのはBOOKOFF 高田馬場北店です。妻と高田馬場で話題のワインバルを予約したのですが、早くついてしまったので、近所にブックオフを見かけて、立ち寄ってしまったというわけです。なんと100円コーナーにありました。

ブックオフ、僕の観察によると、やっぱり品揃えがその街によって違っているようなんです。高田馬場北店は洋書も多いし、他のブックオフでは扱っていないような、日本の茶色い昭和の古書も扱っている気がします。そんな街でやっぱり僕の本は売れなかったのかもしれません。

正直、100円だから買って帰ろうかなって思いました。「自分の本が古書店ですごく安かったら買う」「ネットで、中古が安かったら買う」って著者さんもいるとよく聞きます。そうやって安い中古を潰しておけば、欲しい人は新刊の定価で買ってくれるから、だそうです。

なるほどです。気持ちはわかります。自分で買って、誰か友人や新しく仕事を始める編集者にプレゼントしちゃえば良いわけですから。

でも、「100円だから買う」っていう僕のような本好きっています。そんな人が買ってくれて、「この林伸次っていう人の他の本も読んでみようかな」なんて思ってくれるきっかけになるかもしれません。だから、買わずに帰りました。

店内の写真
110円~220円のコーナーもしっかり見て回ります。他店ではこのコーナーに林さんの本が置いてあったことも。

中古レコード店で働いていた自分としては、「自分の本がいくらなのか」というのはすごく気になります。というのも、中古レコード店では、ビートルズや山下達郎さんのような、人気のある定番はまず安くならないからなんです。

下手すると新品を扱っているお店で品切れだったりして、でも、どうしても今日ビートルズのレコードが必要、なんて人って世の中に結構います。そういうレコードって撮影なんかにも使われるから、高くしておいても買いに来る人っているんです。

そして、ブックオフにも「いつ行っても安くならない本」ってあります。例えば、『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』です。この本、すごくたくさん売れたはずです。

でもみんな読み終わった後に手放さないで、自分の本棚に置いて、たまに読み返すからでしょうか。そんなに中古市場に出てこないようなんです。そして中古市場に出てきたとしても、みんな欲しいと常々思っている本だから、まだまだブックオフの「話題本」の棚で輝いています。

すごく売れたはずなのに、安くならない本ってあるんです。いつか自分の本も、あの「話題本」の棚に仲間入りしたいなって思います。

でもそうなるには、まずすごく売れて話題にならなきゃいけないし、さらに買ってくれたみんなが処分しないで、自分の本棚にずっと置いてくれてっていう状況にして、ベストセラーなのに貴重な本にしなくてはいけないんです。

店内の写真
いつかこの棚に、林さんの本が並びますように……!

まだまだそんな日は遠いかもしれませんが、いつかあの話題本の棚で自分の本が輝きたいです。ほんと市場調査も兼ねて、毎週のように通っているので、いつかそんな日を夢見てます。

そうそう。杉並、新宿、渋谷周辺で、51歳の中年男性が、真剣に婚活本や綺麗になって愛される本、初めての恋愛心理本をたくさん買っていても、変な目で見ないでくださいね。

TEXT:林伸次
PHOTO:林伸次

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