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デスクの前に座るミヤザワさん

ミヤザワさん
2011年、ブックオフオンライン株式会社(当時)にアルバイト入社し、商品の入庫を担当。ライトノベル好きだったことがきっかけで、マーケティング部に異動。2018年正社員に。現在はブックオフコーポレーション株式会社のネットサービス運営部で、ブックオフオンラインを支えるコーダー(※1)として活躍。同サイトのラノベコーナーの企画・原稿も担当している。

※1「コーダー」
HTMLやJavaScriptといった言語を使ってWebページを作成する人

異常なまでに徹底的!? メディアに掲載された「ラノベ担当のミヤザワ」という男

ライトノベルコーナーの前で腕を組むミヤザワさん

――あの、すごく気になるのですが、なぜお面を?

VTuberが大好きなんです。アナログですが「バ美肉 (※2)」してみました。

※2「バ美肉」
「バーチャル美少女受肉」の略。美少女アバターを身にまとうこと。

ライトノベルコーナーの前で大きく映るミヤザワさんのお面
メガネ美少女のお面は、ラノベに登場するサブヒロインをイメージしている。ちなみに推しのVtuberは、戌神ころね。

――2018年にネットニュースのサイト「ねとらぼ(※3)」で取材を受けていますね。オファーのきっかけは?

※3「ねとらぼ」
ネットニュースのサイト

ブックオフオンラインのラノベコーナーで「異世界《召喚・転移・転生》ファンタジーライトノベル年表」を企画・制作したことですね。異世界召喚系ラノベは人気が高まり始めた時期で、まとめている方もいなかったので、ありがたいことに人気を得ました。

ミヤザワさんが企画・制作した異世界ファンタジー小説の年表。はてなブックマーク500以上を獲得して、注目を浴びた。

――年表が『古事記』から始まっていて、ネット上でも「異世界ラノベって、そこから!?」「すごい」と驚きの声が上がっていましたね。

この記事の紹介文を書くために、異世界召喚系ラノベを50冊以上読みました。とにかく、なんでもまとめて総覧したいんです。全部リストアップして「最初が何だったか」を知りたいんですよ。

自分は、広く深くいろいろなことを知りたがる性格。「この○○について網羅的に知りたいから、誰かまとめてほしいなー」と考えることが多いので、それが今の仕事(ラノベコーナーの担当)につながっているのかもしれません。

――ひと記事のために50冊……。ねとらぼさんの取材は、どうでしたか?

取材とか受けたことなかったので、緊張ですよね。「どうしよう、どうしよう」っていう(笑)。何の服着て行こうかとか……。失礼があっちゃいけませんから。質問表を頂いていたので、丁寧に丁寧に6,000文字書くなどして、万全の準備をしてから行きました。

――準備の仕方が普通じゃない。最近では『このライトノベルがすごい2021!』(※4)に寄稿されましたね。

4『このライトノベルがすごい2021!』
宝島社が発行するライトノベルのガイドブック。

本当ありがたいですよ。うれしかったです、めちゃくちゃうれしかったです。手が震えてました。編集部の方にDMをもらって「どうやって返信しようかな」っていうのを半日くらい考えて。DMを読んだのが、金曜日の深夜だったんですよね。木曜日だったら会社で相談できたんですけど、1人で悩んで、緊張してました。

このラノベがすごい!を手にしてうれしそうな表情のミヤザワさん

――やはり、入念に準備を?

大変でしたよー。まず、自分の一年間を振り返る必要があったんです。2020年に読んだ本200冊くらいを振り返ってピックアップして、20タイトルくらいに絞り込んで、ベスト5を選びました。14~15時間かかっています。

――徹底的……! これがミヤザワクオリティ。

スレイヤーズとハルヒがきっかけ ラノベ沼にハマったミヤザワさん

――ラノベを読み始めたきっかけはアニメ?

『機動戦艦ナデシコ』が好きな友達に頼まれて、家で録画していました。ナデシコの次に放送されていた『スレイヤーズTRY』の方にハマって。図書館にあったから「とりあえず読んでみようかな」というのが始まりです。

世の中には先天的なオタクと、後天的なオタクがいると考えています。先天的なオタクは、文字通り生まれたときからオタクです。古き良きものを愛でたり、1つのタイトルを繰り返し見たりするタイプ。後天的なオタクは、ある日オタクに目覚めて、新しいタイトルや流行を追い求めていくタイプだと思っています。

で、自分は後天的タイプ。それまでは全然アニメとか見てこなかったんです。

――スレイヤーズが始まりだったんですね。

その後、本格的にハマったきっかけは『涼宮ハルヒの憂鬱』でした。アニメが放送された翌日に、近所の本屋に行って全巻そろえました。ハルヒっていう変な女がいて、主人公が巻き込まれる話なんですよね。今までにいなかったキャラクターが登場したっていうので、衝撃を受けましたね。

その後MF文庫Jの『えむえむっ!』を読んでライトノベルの面白さに目覚めました。「こういう小説を読みたかった!」というような出会いでした。マゾヒストな主人公がいて、ヒロインが殴ったりするとうれしくなっちゃうんです。暴力系ヒロインはネット上で「どうなんだろう」と言われていた時期だったんですけど『えむえむっ!』は、ドSなヒロインがいないと話が進まないんですよ。それがいいんです。

――MF文庫Jは、ライトノベルのレーベルですよね。

コアなファンの間では「MFのMは萌えのM」と言われていました。今は死語になってますけど、いわゆる萌え作品が多かったんですよね。女の子がかわいいラノベが多い。

MF文庫Jコーナーじっと見つめるミヤザワさん
ミヤザワさんの心をくすぐるMF文庫Jのコーナー。並べると一面が緑色になり、目に優しいのも魅力とのこと。

――ラノベの魅力は、どんなところにあるんですか?

毎日読んでも飽きないのがポイントだと思います。多様なジャンルがあるので、今日は現代もの、明日はファンタジーもの、といろいろ楽しめる。すぐに手に取れて、すぐに読み始められて、すぐにやめられるところもラノベの利点だと思っています。

あと、女の子がかわいいところですね。

――とにかく、かわいい女の子が好きなんですね(笑)

大好きです! 美少女が嫌いな人なんていませんね! ラノベはヒロインありき。キャラクターの魅力は強いですね。

――熱量がすごい。ほかにも詳しいものが?

声優はラノベ以上に詳しくて、1,000人以上は名前を挙げられます。声の聞き分けはなかなかの精度で当てられると思います。林原めぐみさん、國府田マリ子さん、桃井はるこさん、堀江由衣さん、東山奈央さんが好きです。あと期のアニメは全部見ますよ。毎日2時間目標で。

イスに座って話をするミヤザワさん
ゲーム・YouTube・ニコニコ動画・ホラー映画・大相撲も好き。そして今一番興味があるのは、VTuberと筋肉と宇宙。宇宙……?

所持金400円の夏、チャリで20km先の面接会場へ 無職の男から「ラノベ担当のミヤザワ」になるまで

――アルバイト入社された当時のことを教えてください。

面接の日は財布に400円しかなかったので、電話受付の方に「自転車で行ってもよろしいでしょうか」と聞いて、20kmくらいこいだのが良い思い出ですね。緊張はしなかったです。自転車で行ったのが良かったんでしょうね。(着いた時点で)疲れてるし、7月の下旬だったと思うんですけど暑かったし。

――400円……。そこまでして、どうしてブックオフに?

入社前は1年間くらい無職で、夜な夜な自転車でブックオフに行って、2時間くらいラノベを読んで次の店へ、みたいな感じで毎日4~5店舗回る生活をしていました。

Web業界でよくある話なんですけど「滞在時間が長いと愛着を持ちやすい」というのがあって。毎日4~5時間ブックオフにいたから、とにかく長かった。もう店員さんくらいの長さ。働いてんの? っていう(笑)

MF文庫を手に取り懐かしむミヤザワさん
連日連夜通っていたせいか、ブックオフ愛に目覚めていった。初めて店内で読み切ったのは『けんぷファー』3巻。
※コロナウイルス感染拡大防止の為、現在は立ち読みをご遠慮頂いております。

毎日ラノベの立ち読みを繰り返すなかで、「あー自分ブックオフ好きだわー。でも人見知りだから接客は難しそうだし……。お、ブックオフオンラインの倉庫があるじゃないか」と思って。働くならブックオフが良い、たくさんの本が集まる天国のような職場だと。

――実際に働いてみて、どうでした?

めちゃくちゃ楽しかったですねー。本好きの人は絶対ブックオフオンラインの倉庫で働いてほしいですね。入庫しながら好きな本を見つけてたんですよ。気になったタイトルを家に帰ってから調べて「買ってみようかな」っていう。

――約3カ月後、マーケティング部に異動されていますよね。

社内公募で「ライトノベルに詳しい人」を募集していたので、即日応募しました。昼休みに公募を知って、すぐ担当者に「絶対、面接していただきたいです」とお願いして。

社内公募は「どうしたらもっとラノベが売れるかを考えてほしい」という主旨だったようですけど、もともと大学でWebページ自動処理について研究していたのでHTMLに詳しかったんです。それで、ラノベコーナーの制作も担当させていただくことになりました。

――すごい偶然!

面接のときラノベ年間150冊とか読みますよって話を最初にしたので、面接官は「こういう人が、何人もくるのか……?」と思ったみたいですね。でも、その後で面接に来られた方々は、そこまでではなかったみたいで。

――年間で150冊ですか!?

無職の時代に「どうやったらいっぱいラノベ読めるかな」と思いまして。そしたら『ためしてガッテン』で速読特集をやってたんですよ。そのときに紹介されてたノウハウに関心を持って『新書1冊を15分で読む技術』を読みました。今は年間で250冊くらい読んでます。

ミヤザワさん愛用のタブレット
愛用のタブレットには数千冊の本をストック。ラノベは通勤時間と就寝前に読む。

――ラノベのために速読までマスターしていたんですね……。

たくさん読みたかったんです。多読なんですよ。精読じゃなくて、多読。例えばアニメの一話だけを10回見た場合と、10作品のアニメを一話ずつ見ていった場合だと、一話を10作品見たほうが語れる幅が広いんです。1冊を読みこむより10冊を読んだほうがいい。

ラノベの読書数では全体の上位3%くらいに入っていると思いますが、詳しさで言うと、まだまだと思っています。自分より詳しい方々は本当にたくさんいますから。

――マーケティング部に異動してからは、どんな仕事を?

最初は、フィーチャーフォン(いわゆるガラケー)用のラノベコーナーを作ってました。最近のお薦めを10冊くらいまとめて紹介する小さな特集を作ったり、1冊を詳細に紹介するページを作ったりして3年間で300タイトルくらい紹介しましたね。今はネットサービス運営部でブックオフオンラインのサイト管理・更新業務と、ラノベコーナーの企画・制作を担当してます。

パソコンの前に座りコーディングをするミヤザワさん
「HTMLの間違いを見つけるのが異常に速い」という噂。普段はお面をしていません。

――その中で「異世界《召喚・転移・転生》ファンタジーライトノベル年表」が生まれたんですね。ほかにもネットで大きな反響を得た企画はありますか?

6記事ほどあります。中でも「死ぬまでに読むべき名作ライトノベル特集」は、はてなブックマーク500以上を獲得した人気企画ですね。この特集では、敢えてツッコミどころを残したリストアップにしたんです。狙い通り賛否両論あって、大きな反響につながりました。

「史上最高の『ループもの』ライトノベル特集」も人気が出ましたね。『Re:ゼロから始める異世界生活』という有名なラノベがあるんですが、当時アニメ化が決まっていて、放送されたら爆発的な人気が出るとわかっていました。だから、アニメの公開直前にこの特集をアップしたんです。はてなブックマークが約250に伸びました。

オタクという名のスペシャリストに! ミヤザワさんが大切にするマインド

――ブックオフオンラインで約10年ラノベを担当されてきて、どんな影響がありましたか?

昔は「ブックオフってネットあるの?」と言われるくらいブックオフオンラインが知られていなくて、社内で「認知度を上げたい」という声が出ていたんです。微々たるものかもしれませんが、ラノベコーナーがネットでバズったりSNSで拡散されたり、自分が取材を受けたりすることで「ブックオフオンラインというECサイトがある」と知ってもらうきっかけを作れたんじゃないか、と思っています。ラノベコーナーは、多いときで年間100万PV(※5)に上ることもありましたので。

あとはラノベコーナーでテスト運用ができたっていうのもありますね。他部署に「この方法よかったので、実装してみませんか」と共有するなどしているので、ブックオフオンライン全体のクオリティアップや運用レベルの底上げにもつなげられているのでは、と思ってます。

※5 「PV(ページビュー)」
Web上の特定ページが何回見られたかを表す数字

イスに座って少し考え込むミヤザワさん

――無職でブックオフ巡っていたとは思えません。趣味も極めると強みになるのですね。

そうですね。いつ球が飛んできても打ち返せるようにしておくといいんですよ。いろんな本を読んでおくといい。自分もデザインや心理学など、あらゆる本を読みました。「宇宙が始まる前には何があったのか?」とか(笑)。知っているに越したことないですから。

そしてブックオフでは、ジェネラリストよりもスペシャリストのほうがチャンスをつかみやすいと思ってます。誰にも負けないものがあれば、適所に配置してくれる。「店舗でお客様の対応してください」と言われても、自分には多分できない。得意なことをやらせてくれる、能力を生かしてもらってるな、と思いますね。適材適所です。

――仕事上の悩みや失敗はありますか?

めちゃくちゃありますよ。悩むし、落ち込むし。でも過去はあまり振り返らないので、覚えてないんです。失敗しても「同じ失敗しないためには、どうしたらいいかな~」と考えて、根本的に解決できたら忘れちゃう。

ただ性格診断をすると「共感力がたりません。相手の立場でもっと理解しましょう」と書かれることが多いんです。職人には向いているけど、相手の気持ちを察するような仕事にはあまり向いてないという。そこは変えていかないとな~と思ってます。相手の言うことを理解してから自分の言うことを理解してもらおう、と。なかなか難しいですが。

――コミュニケーションにおいて、工夫されていることはありますか?

「手は手でなければ洗えない、得ようと思ったらまず与えよ」の精神でコミュニケーションをとるようにしています。『カウボーイビバップ』に出てくるんですよね。台詞を丸暗記するくらい好きなアニメなんです。

スタッフさんには、自分からたくさん話しかけるようにしています。そうすれば自分のことを「話しやすい人」だと思ってくれるかな、と。毎日たくさん雑学を仕入れてますよ。それで、明日コレ話そうかな~とお風呂で考えたりして(笑)。

スタッフとにこやかに話すミヤザワさん
スタッフからは「タスクの進捗状況に気を配って、よく声を掛けてくれる」「丁寧に教えてくれるので相談しやすい」と評判。それにしても、お面が気になる。

――ミヤザワさんが仕事上、大切にしているマインドは?

『PLAY・JOB』という本の内容が、めちゃくちゃ生かされてます。人生の指針ですね。

愛読書を手にしているミヤザワさん
自身の考え方に合っているという『PLAY・JOB』は、愛読書。

DO IT, THEN FIX IT
AS YOU GO.
考える前に動き出せ。

あまりにも多くの人間が、準備に時間をかけすぎている。
実際にやる前から、すべてを完璧にしようとするために。
待つことはない。動き出せ。よくわかっていない状態のままでいい。
準備は走りながらするものだ

2008年サンクチュアリ出版 ポール・アーデン『PLAY・JOB』pp.66-67

『ベルセルク』にも「達人にでもなるのを待ってから戦場に出るつもりか?」というセリフがあるんですけど、そういう感じですね。最初に手を挙げることです。敢えて一歩前に出てみる。ラノベの担当者になったときも、公募の話を知ったら休み時間にすぐ応募していました。最初に何かをやれた人っていうのは、他の人に比べるとアドバンテージがあります。

そして、大前提として真面目に取り組むことだと思います。無遅刻無欠席、体調管理を万全にして、人がやってほしいことを素早くこなすことが大切です。

――とても堅実に歩まれてきたのですね。本日は、ありがとうございました!

ライトノベルコーナーを前に両手で喜びを表現するミヤザワさん

オタクと言うと「マニアック」「傾倒しすぎている」といった印象を抱く人もいるかもしれません。しかしインタビューを通じて、オタクはスペシャリストの1つの形なのだと実感しました。好きなものを極めていけば、誰にも負けない力になる。個性になる。ミヤザワさんの半生が、それを証明している気がしました。

TEXT:伊藤奈緒子
PHOTO:伊藤奈緒子

【ミヤザワさんのおすすめラノベ】

日々、膨大な量のラノベを読んでいるミヤザワさん。せっかくなので、珠玉の作品を教えてもらいました。ぜひチェックしてみて! ※ 作品名をクリックするとブックオフオンラインの商品ページにリンクします。

推しの名作:『その日彼は死なずにすむか?』小木君人(ガガガ文庫)

読み終えて、ふと気づいたら2回読んでいる名作。タイムリープものとして声を大にしてお薦めしたい一冊です。

直近の激推し:『フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~』気がつけば毛玉(角川スニーカー文庫)

この世界の物語をずっと読んでいたいと思う傑作。優しい人しかない日常系ラノベです。

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