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ブックオフでは、2022年から店舗に集まる数々の古着をアップサイクル(※1)するコンテスト「リクロースカップ」を開催しています。

服飾系学科に通う全国の学生を対象とした「デザイン部門」と、一般の方も参加できる「販売部門」の2部門で開催されるこのコンテスト。3回目を数える今年は、立ち上げから参加いただいている『装苑』の編集長・児島幹規さんのほか、新たにANREALAGE(アンリアレイジ)のデザイナー・森永邦彦さんも審査員に招き、一次審査を通過した作品をファッションショー形式で最終審査します。今年は、コンテスト初の一般公開を行うとのこと。

「ブックオフでファッションコンテスト?」と疑問に思う方も少なくないと思いますが、なぜ開催に至ったのでしょうか。そのバックボーンについて、お話を伺いました。

※1:「アップサイクル」
廃棄予定だったものに手を加え、新しい価値を持つ製品に生まれ変わらせる手法

相澤 樹(あいざわ みき)さんの写真

相澤 樹(あいざわ みき)さん

スタイリスト

2005 年よりフリーのスタイリストとして活動開始。 雑誌でのスタイリングをはじめアーティストの CDジャケットや MV、広告、TVCM などで活躍。また、衣装デザインやエディトリアルディレクション、アニメ衣装の監修、空間プロデュースのほか、2021年に東京で開催されたパラリンピック閉会式では衣装ディレクターとして参加。ブックオフのリクロースカップでは審査員を務めている。

山田 美有(やまだ みゆ)さん     の写真

山田 美有(やまだ みゆ)さん

ブックオフ社員

ブックオフ西日本支社において、福岡を拠点にインバウンド推進などを手掛けるベテラン社員。相澤さんとは超が付くほど仲良しで、プライベートでは一児の母でもある。リクロースカップの発起人。

ブックオフの古着を使ったコンテスト「リクロースカップ」

――古着のデザインコンテスト「リクロースカップ」を始めた経緯を教えてください。

山田:私はブックオフで店舗運営を担当していて。たまたま自分がいる店舗に服飾系の学生が多かったことから「彼らと一緒に、服に関わるおもしろいことができないか」とずっと考えていました。ブックオフにはたくさん古着があるので、それを素材として新しい服を生み出してみようと思いついたのがリクロースカップのきっかけです。

相澤:それってまさにブックオフだからこそできたことですよね。アパレルショップだと、店頭に服を並べても、売れずに流行が過ぎればその商品って廃棄になってしまう。だけど、それを逆手にとって、まったく新しいものに再構成していく。この取り組みには、ブックオフが最適だと感じます。リクロースカップの審査員を引き受けたときにこのお話を伺って「おもしろい」と思い、私も心に火がつきました。

――改めて、コンテストの内容を教えてください。

山田:デザイン部門では、名前の通り自由で個性的な作品を募集しますが、素材を選んだ理由、使い方、どこまで無駄なく使いきれたかなど、様々な視点で審査します。販売部門では、実用的な服、バッグ、小物などのデザインを募っていて、入賞作品はブックオフで商品化する可能性もあります。

ブックオフで服を販売していることはあまり知られていないので、リクロースカップをきっかけに認知を広げたい、という想いもありました。

相澤さんと山田さんが話している様子

――リクロースカップは2022年から始まって今年で3回目ですが、手応えはいかがですか?

山田:やっていておもしろいですね。「こんなのが生まれてくるんだ!」と驚くような作品に出会えます。

相澤:「あるものを組み合わせて作る」という制約がある中で、どう新しいものを組んでいくか。その思考の結果を見られるのが毎回楽しみです。

山田:「こう来たか!」って。

相澤:組み合わせることによって元の服よりすごく良くなることもあるし、すごくダメになることもある。それも含めておもしろいですよ。

過去作品を見る二人
2022年のブックオフ賞(富山聖さん作)の作品を見ながら。この作品は、素材としてはリサイクルしにくいとされているポリエステルなどの服を使ってアップサイクルされた一着です

――印象に残っている作品はありますか?

相澤:昨年のデザイン部門のグランプリ作品には、正直度肝を抜かれましたね。リメイクだと、手法はほとんどパッチワークに限られますが、「あ、こういうパッチワークの仕方があるんだ」って思わせてくれる作品でした。

2022年度リクロースカップの優勝作品
2022年度リクロースカップデザイン部門の優勝者・堀 佑歌さんの作品。リボン結びでつなげられたパーツはリボンをほどくことで様々な形に変えることができます(PHOT by Norifumi Fukuda)

「学生を応援したい」の想いで広がったリクロース

――リクロースカップには優秀作品が商品化される「販売部門」がありますが、これはすごくおもしろい試みですよね。

山田:作品を作ってそれを表彰するまでで終わるコンテストは多いですよね。だからこそ、実際に販売するところまでチャレンジしたかったんです。

リクロースについて語る山田さん

相澤:お客様に着てもらうものとして、実際に販売するところまで持っていったのはリクロースカップのすごいところだと思いますね。

山田:それをさらに推し進めるために、今年の7月、BOOKOFF SUPER BAZAAR ミーナ天神店に「Reclothes Labo(リクロースラボ)」という工房を作りました。もともとは受注制でアップサイクルした服を作って販売していたんですけど、注文を受けてから作るだけだと店頭に並ぶ商品の数を増やせなかったんですよね。もっとたくさんの作品をお客様に見ていただきたかったので「それなら自分たちで服を作る場所を作っちゃえ」って。ここで作られた服は「Reclothes(リクロース)」というブランド名で販売しています。

ラボで作られた服
ラボで作られた服には「Reclothes」のタグが。現在は、不定期に開催するポップアップストアで販売されており、好評を博しています
リクロースブランドで販売している服
リクロースで販売するのは、大きく分けて2種類。1つは学生たちの自由なアイデアをベースにデザインされるパターンで、全て1点モノ!
リクロースブランドのシャツ
もう1つは素材や色などを自由にカスタマイズできるシャツとワンピース。
現在はポップアップストアで承っています。取材時は大いに盛り上がり、編集部の1人はパープルでオーダーしていました!

――そこではどんな方が働いているんですか?

山田:専門学校や大学の服飾学科に通う学生さん、学校を卒業したばかりでまだ就職してない方などですね。リクロースブランドはブックオフ店舗のスタッフと同じ労働条件で採用させていただいてるので、同じようにお給料をお支払いしています。

ミーナ天神店の中に構えたラボ
ミーナ天神店の中に構えたラボ。服飾学科の在学生や卒業生を雇い、デザインや縫製を学びながら、クオリティの高いアップサイクル品を制作してもらっています

相澤:販売と制作が同じ場所で行われているので、学生にとってはすごく勉強になる。良い環境ですよね。縫製やデザイン、販売を学びながらアルバイトとしてお金ももらえる環境は、学生さんにとっては本当にラッキー。自分で作った服が店頭に並んで、それが売れていく様も見られるから、すごく励みになると思いますよ。

山田:実際に販売する商品を作るので、ラボにはプロの講師もいます。学生さんは仕事をしながら講師から技術を学ぶこともできるんです。

相澤:縫えば縫っただけ技術が上がりますからね。私が学生の頃にリクロースラボがあったら絶対働いていたと思います。

山田:学生さんたちも「この環境で服を作れて、それを売ってお金を稼ぐ経験もできるのはすごくありがたい」って言ってくれています。ラボもコンテストも、学生さんたちを応援する場所や機会を作りたいという点で全部一貫しているのでとても嬉しいですね。

リクロースラボの様子

相澤:ブックオフさんがこの取り組みを行っているというのも、すごく良いですよね。ブックオフって買い取りでいろんなモノが入ってくる環境じゃないですか。私も自分のアシスタントたちに「たくさんの服を触っただけ成長する」と言っているんですけど、ブックオフでは、廃棄されるかもしれなかった服にも価値をつけて商品にするサイクルが見られる。それを学生の時に体験していると「なんで服って高いんだろう」とか、逆に「なんでこんなに安いんだろう」というのが理解できる。それはすごく良い機会だと思います。

山田:我ながら良い案だったなと思いますね(笑)。今後はポップアップストアで受注会などもできたらいいなと思っていて、いろいろ計画しているところなんです。

ブックオフが、アップサイクルコンテストを開催する意味

――リクロースカップを進めていくにあたって、いちばん大変だったことはなんですか?

山田:コンテストのレギュレーション作りから始まり、何から何まで、一から組み上げていくところがすごく大変でした。ただ、審査員長でもある『装苑』編集長の児島幹規さんに協力してもらうことができて。リクロースカップの企画が出来上がるまで最後まで一緒にやっていただけたので、本当に助かりました。

相澤:児島編集長はすごく愛情がある人だから「やる」って言った人に対しては全力で向き合うし、全力で支えてくれるから、すごくいい出会いになったと思います。

山田:リクロースカップを始めるにあたって、最初に服飾系の学校の先生に相談に行ったんですよ。その時に児島さんを紹介してもらったのですが、とても良い方をご紹介いただいて本当にありがたいですね。

相澤:リメイクのコンテストってあまりないですし、そもそもコンテスト自体が減ってきていることを児島さんも懸念していますからね。何か感じる部分があったんだと思います。

相澤さんが話しているところ

――コンテストが減っている理由とは?

相澤:先程も話にあがったように、衣服ロスや環境課題などの観点から、企業がファッションを推していけなくなって、コンテストに協賛がつかなくなったんですよね。

山田:コンテストやショーをするのって、めちゃくちゃお金がかかりますからね。ファッションイベントに協賛することが宣伝にならないと判断されると厳しいですね。

相澤:応募する側からしても、コンテストで賞を取ったからといっていい企業に就職できたり、留学してファッションデザイナーになったりできる時代じゃなくなっているというのもありますよね。デザイナーを目指す人自体がめちゃくちゃ減っているのが現状です。

山田:「自分で服を作ろう」って志す人は全然いなくなっちゃいましたよね。

相澤:それにアーティストってすごく孤独で、大変ですから。そういう面でもリクロースラボを作ったのは本当に良かったと思いますよ。孤独にならずに手を動かせる場所を提供しているわけですから。

リクロースを通して見えてきた「アップサイクル」の価値

――お二人から見てファッションの環境課題に対する世の中の意識は高まっていると感じますか?

山田:まだまだ一般消費者には身近ではないと思っています。その服のデザインが好きで買う人はいても、「アップサイクルされたものだから」と買う人って、まだまだ少ない。

相澤:うん。

山田:一方で、まだ着られる服が大量に廃棄されてしまう「衣服ロス」が世界中で問題視されていますよね。そういう意味では、服の作り手の意識は変わり始めている気はします。

話している山田さんを見つめる相澤さん

相澤:不要になった生地で服を制作するブランドも増えていますよね。アパレルではないですけど、私の周りでは、環境によい原料で化粧品やシャンプーを作っている人たちも増えていて、少しずつ環境への意識は変化しているように感じます。

山田:ブックオフの店頭で働いていたときは、ただそこにあるものを売る仕事をしていたので、作り手がどうしてこの服を作ったのかなんて考えたこともなかったんですよ。でもリクロースを始めてから、アパレル業界の方と話す機会が増えて、彼らが「長く着てもらえるには」「簡単に捨てられないものにするには」と考えていることがよくわかるようになりました。

相澤:それはまだまだ一般消費者には伝わっていない。

山田:時間がかかりますよね。

――服って必需品であると同時に贅沢品としての側面もありますからね。

相澤:難しいですよね。やっぱりみんな新しいものをどんどん消費したいし、流行を取り入れたい。そこにアップサイクルの考え方がどう食い込めるのかを考えると、それは「唯一無二性」なんじゃないかなと私は思っています。

山田:そこに価値を感じて買ってくれるといいですね。「自分しか持っていないもの」が欲しいと思う人が増えればチャンスはありますよね。

相澤:「唯一無二の服」を楽しんでくれる人が増えていくことが重要なのかなと思います。毎回そのときある素材で作っているから一着として同じものはない。それによって流通の新しい道が開いていくような気がしています。

笑い合う相澤さんと山田さん

まとめ

「廃棄される予定の服をアップサイクル」と聞くと、”サステナビリティに配慮したある種の慈善事業”のように勘違いされるかもしれませんが、それは大間違い。
リクロースの商品を実際に見てみるとどれもファッション性に溢れていました。

古着に新たな価値を付加させるアイディアと技術、それらを結びつけるリクロースというコンプトとその試みに感動を覚えました。

【2023年度リクロースカップ】
日程:10月29日(日)
場所:福岡国際会議場 多目的ホール
HP:リクロースカップ
※観覧については、リクロースカップ公式サイトからお問い合わせください

【リクロースの販売について】
阪神梅田本店にて、2023年12月13日から19日までポップアップストアを出店予定! 詳細はミーナ天神店へお問い合わせください。
BOOKOFF SUPER BAZAAR ミーナ天神店:https://www.bookoff.co.jp/shop/shop20529.html

TEXT/PHOTO 照沼健太

【ブックオフはアパレル用品もすごい! な記事はこちら】

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