ヒラギノ游ゴ
ライター
音楽・スニーカー・お笑い・ジェンダーなどにおいて幅広い知識を持ち、軸のある文章で読者を惹きつける。『ダ・ヴィンチ』『クイック・ジャパン ウェブ』『MUSICA』などでコラムやレビュー記事などを連載中。
ファミリー向け店舗の一角にマニア垂涎のコーナーが
スニーカーが買えない!
近年スニーカーシーンの盛り上がりとともに、人気のモデルはネット抽選での販売が常態化し、熾烈な争奪戦が繰り広げられているほか、中古市場でも高額転売やコピー商品が横行し問題となっています。
そんな中、名古屋にスニーカーの在庫がとんでもなく充実したブックオフがあるとの情報が。今回は実際にその店舗BOOKOFF SUPER BAZAAR 西友高針店を訪れ、スニーカーコーナーの仕掛け人たちから話を聞くことに。
ヒラギノ:トラヴィス・スコット×フラグメントデザインのAJ1 LOWだ! これ、手にとって見られるところにゴロッと置かれるようなものじゃないですよ!
服部:そうですね、やっぱり手にとってもらえるのは実店舗の強みですから。
豊田:あとは単純にショーケースに入りきらないという事情もあります。ありがたいことに、今の時点でもいいものがたくさん買取できていまして。
ヒラギノ:お二方がこのお店の仕掛け人ですね!
豊田祐基さん
現行モデルから旧モデルまでいろいろなレアスニーカーを所有している、社内随一のスニーカーマニア。ブックオフのスニーカー事業の鍵を握る人物。
服部好志さん
西友高針店のスニーカーコーナーの発起人。
ヒラギノ:今日はよろしくお願いします! さっそくですが、どういった経緯でこんなとんでもない店舗が実現したんでしょうか?
服部:僕がやりたいと会社にプレゼンして、僕の在籍しているお店でやることになった、というのが経緯ですね。2022年の4月にお店をリニューアルした際にこのスニーカーコーナーを作りました。
ヒラギノ:そういった自主性を尊重する企業なんですね!「まずは東京でやろう」となりそうなものですが。
服部:いままで名古屋にこういったマニア向けのスニーカーを扱うお店がなかったというのも理由の1つです。1人のマニアとして飢えてましたし、商売人としての勝算も感じていました。
ヒラギノ:スニーカーショップではなく、あくまでブックオフの1コーナーというのが粋ですね。ファミリー向けの店舗の一角に突然現れる穴場感。スニーカーの売り方として今一番かっこいい形かもしれません。
服部:それも狙いの1つですね。スニーカーの価値のわかるお客さまがなんの気なしにいらっしゃって、コーナーの前で驚きの声を出されていることがよくあります(笑)。
ヒラギノ:ただ、最近ではメルカリのほか、スニーカーに特化した売買サービスも急成長してます。ブックオフでの売買と迷う人も多いのではないでしょうか。
服部:当店では、買取価格も売値もネットで買うのと同じ水準を実現しています。あとは自分で写真を撮って価格交渉して発送する手間と、お店に持ってきていただくのと、どちらを取るかといったところですね。この店舗の品揃えや価格設定などを見て、ここなら信用できると売りにきてくださるお客様もいらっしゃいます。その場で現金化ができるというところも強みかなと思います。また、店頭にはあえて相場より安くご用意しているスニーカーもあります。お店で買い物する楽しみってそういう掘り出し物を見つけることにあると思うので。
ヒラギノ:ああいう思いがけず安く買えるものって単純にお店側のミスなんだと思ってましたが、狙ってやっている場合もあるんですね!
服部:僕は割と狙ってやってますね。あと、なんと言ってもブックオフでスニーカーを売り買いするうえで、豊田さんの存在はすごく大きいと思います。
ヒラギノ:と言うと?
豊田:私の仕事は、スニーカーをはじめとしたブランド品の真贋を見極め、社内に共有するというものなんです。
ヒラギノ:それはつまり……鑑定士さんみたいな……?
豊田:簡単に言うとそういうことになります。
スニーカー鑑定師の素顔に迫る
ヒラギノ:個人的には、やっぱりネットでスニーカーを売り買いするのはかなり怖いです。自分がネットで買ったものの中にも精巧な偽物があるのかもってたまに考えます。
豊田:そうですね、ちょっと例を見せましょうか。
豊田:右が正規品、左が「基準外品」、つまり我々が正規品の条件を満たしていないと判断したものです。
ヒラギノ:えっ!? つまり偽物……?
豊田:我々はそういう言い方をしませんが、まあそういうことになります。真贋の判断はあくまで売り主であるブランド自身に委ねるという不文律があって、我々としてはあくまで「当社の買取基準を満たしていない」という扱いなんです。
ヒラギノ:まったく見分けがつかない……!
豊田:商品のタグ(通称:黒タグ)まで偽造ということはザラにありますし、最近では正規店のレシートまで偽造されている例もあるんです。
ヒラギノ:レシートまで!?
豊田:いたちごっこなんですよ。こちらがマニュアルをアップデートしても、コピー品業者がそれをクリアするものを作ってしまう。だからこの記事でも、正規品とどこがどう違うというのは詳しく申し上げられないんです。言ってしまうとそこをクリアするものを作られちゃうので。
ヒラギノ:なるほど……!
ヒラギノ:しかし想像がつかないんですが、こういう鑑定の技術ってどのようにして身につけるんでしょうか?
豊田:どれだけたくさん本物と基準外品(偽物)を見てきたかに尽きますね。
ヒラギノ:“どれだけたくさん本物と基準外品(偽物)を見てきたか”……。
豊田:それに、僕の仕事は真贋を見極めるだけではありません。経験を頼りに違和感を見つけて言語化し、他のスタッフが同様に見極められるようマニュアル化する。自分の技術を会社の資産として共有できる状態に持っていくことです。
服部:実際、ネットで購入された商品を売りに持ってこられて、その場で正規品ではないと知るお客さんもいらっしゃいました。
ヒラギノ:そういうとき、人間はどんな反応を……?
服部:「そんなはずない!」と取り乱される方もいらっしゃいましたし、ドラマみたいに膝から崩れ落ちる方もいらっしゃいました。そういう悲しい買い物をしないで済むようにという点でも、我々が鑑定ノウハウに基づいて実店舗で買取・販売をおこなうことで貢献できるのかなと。
豊田:ネットの鑑定サービスもいろいろと出てきていますが、新興のサービスですと古いモデルへの対応には難があるように感じます。実際所有している精巧なコピー品をいくつか鑑定に出してみましたが、「鑑定不能」という結果が返ってくるものもちらほらとあって。
ヒラギノ:すごい次元のやりとりだ……。
服部:ちなみにトヨダさんが詳しいの、スニーカーだけじゃないんですよ。
豊田:クワガタオタクでもありまして、夜ごとクヌギ林に分け入って採集したり、より大きくなるよう研究しながら飼育したりしています。
服部:タトゥーは止められちゃったんですよね。
ヒラギノ:タトゥー?
豊田:腕にですね、ギネス記録と同じサイズのオオクワガタのタトゥーを入れて、いつでも比較してサイズが測れるようにしようとしたんですが、妻に猛反対されまして。
ヒラギノ:最高ですね……まぁでも、いやですよね、パートナーの腕いつ見ても虫がとまってるの。
豊田:いつかはクワガタコーナーのある店舗も作りたいですねえ。
服部:このスニーカーコーナーの真ん中にでっかいクヌギ置きますか。
ヒラギノ:もう何屋さんかわかんないですね。
西友高針店秘蔵のスニーカーコレクション3選!
ヒラギノ:いま店頭にあるもので、服部さん自慢のスニーカーを教えてください!
服部:はい、持ってきましたよ。
ヒラギノ:いいですね、自信が顔にみなぎってますね。
服部:3つご紹介させてください。まずこちら、NIKE/AIR FORCE 1 LOW MR. CARTOON LIVESTRONG。非常に足数が少ないもので、 僕自身ずっと探していたものでした。
ヒラギノ:作り込みが細かくてかっこいい!
服部:これは、ナイキががん撲滅を目指す慈善団体「リブストロング基金」と提携していたときに定期的に出していたコラボ商品の1つです。かっこよすぎてテンション上がりましたね。非常に価値の高いモデルです。
ヒラギノ:さっき服部さんご自身が欲しかったモデルだとおっしゃってましたが、「こんなのおれが買うよ」って商品ばかりで働いていて大変じゃないですか?
服部:そうですね、これに関してはサイズが合わないので売り場に出してます(笑)
服部:トヨダさんが手にとっているのがNIKE/AIR FORCE 1 LASER PACK 2003 LIMITED EDITION BY MARK SMITH。レーザー加工で革に彫刻のような装飾が施してあります。
服部:そして最後、これはNIKE/SB DUNK LOW DORENBECHER (2018)。闘病生活を送る子供たちがデザインしたスニーカーを製品化するプロジェクトによるもの。
ヒラギノ:ディテールのデザインに遊び心があっていいですね。
服部:価格だけで見ればうちのお店にはもっと高額なものがたくさんあるんですが、今紹介した3つはそもそも存在を認知している人自体が少ないレア中のレア。こういった通好みのものは他にもたくさんありますし、常に新しいものが入荷しているので、定期的に足を運んでいただいても楽しい店舗です。
ブックオフだからこそスニーカーに「出会える」
ヒラギノ:現行モデルから旧モデルまでいろいろなレアスニーカーを所有しているトヨダさんですが、スニーカーとの出会いはどんなものだったんでしょうか?
豊田:そうですね、私が小学生の時にエアマックス狩り(※1)というのがあって。
ヒラギノ:あれって本当にあったんですね。下の世代の僕からすると、「話盛ってない?」みたいな感じなんですが。
※1「エアマックス狩り」
AIR MAX 95の爆発的な人気を受けて発生した社会現象。AIR MAX 95を履いて歩いているところを襲われて奪われたり、学校や公衆浴場などで脱いでいる間に盗まれたりというのが問題になった。
豊田:そういった話を見聞きしたり、雑誌で「なんでこんなに高いんだ!?」というスニーカーを知ったりして興味を持ちました。
ヒラギノ:いいですね、憧れる時代です。トヨダさんにとって思い出深い1足というとどのモデルでしょうか?
豊田:やっぱりAIR JORDAN 1シリーズですね。一番多く持っているのもこれです。
ヒラギノ:長くシーンの中にいたトヨダさんから見て、現在のスニーカーカルチャーはどのような印象ですか?
豊田:20年以上スニーカーカルチャーを見てきましたが、どんどん加熱していますね。今は僕の若い頃と比べて何倍にもマニアの分母が膨れ上がっています。
ヒラギノ:そうなんですね!それこそマイケル・ジョーダンが現役の時代や裏原ブームの頃のほうが熾烈な争いがあったのだとばかり思ってました。
豊田:あの時代はあの時代で争奪戦ではあったんですが、言ってみれば「並べば買える」時代だったんですね。この店で売りそうだという店にヤマを張って、発売日の前日、そうですね、12時間くらい前からでしょうか。それくらいの時間帯に並びはじめて、翌朝出勤してきた店員さんに「あれって今日ここで売ります?」って聞くんです。それで「いや、ないっすね」と言われる。
ヒラギノ:うわぁ……そんな時代があったんですね。しかし、そういう点で言ってもこのお店はすごいですよね。並ばなくても買える。さらにスニーカーショップってなかなか入りづらいものですが、ブックオフなので誰でも入りやすい。親御さんと一緒に来た小さい子がこのコーナーでスニーカーカルチャーと出会ってしまう、という状況を作り上げてるわけで。
服部:それでいうと、少し前に中学生くらいの女の子がずっとこのコーナーで立ち尽くしていたことがあって。話しかけたら、SNSでなんとなく見たことある程度のスニーカーがこんなにたくさん目の前にあるってことに衝撃を受けたそうで。
ヒラギノ:“出会った”んですね……。ブックオフだからこその光景だ。
服部:そのまま2時間くらいずっといらっしゃって、たくさん写真を撮って帰られました。……あれはうれしかったですね。
ヒラギノ:今後、こういった店舗は増やしていく構想があるんでしょうか。
豊田:この店舗ほどではないですが、神奈川のBOOKOFF SUPER BAZAAR 綱島樽町店もスニーカーが豊富ですし、他の地域にも今後少しずつスニーカーに強い店舗を増やしていく計画です。
服部:スニーカーコーナーをリニューアルしてまだ数ヶ月なんですが、今すでにスニーカーの買取件数が前年比1,500%まで増えていて。今後この記事の効果もあって認知が広がり、さらに買取も増えて、より充実した店舗になっていきたいですし、そういう店舗を増やしていきたいと思っています。自分自身、それが楽しみです。
取材を終えて
本物のスニーカーマニアが、ある意味日本で最も知られているリユースショップでスニーカーを売る。1つのカルチャーにとってエポックとなるような豊かな土壌がそこにありました。こういった何気ない、気取っていない場所に、熱いこだわりに裏打ちされたおもしろいものが眠っているかもしれない。そう思えたら、自分の住む街に物足りなさを抱えている人たちにとって希望になりえるはず。
このお店は、ブックオフが長年担ってきた宝探しの場所としての役割が1つの到達点を迎えた例と言えるのかもしれません。
TEXT:ヒラギノ游ゴ
PHOTO:井川拓也
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ヒラギノ:うっわ!! 一目見てもうすごい!!