ヒラギノ游ゴ
ライター
音楽・スニーカー・お笑い・ジェンダーなどにおいて幅広い知識を持ち、軸のある文章で読者を惹きつける。
ここ数年、「アナログレコード」が熱いですよね。
シティポップや昭和歌謡が再評価されている流れにより中古市場が賑わっているほか、宇多田ヒカルさんやあいみょんさん、Adoさんなど、新曲をレコードでリリースする現役アーティストもちらほら。近年のアナログレコードブームは、どんどん勢いを増しています。
ただ、レコード専門店のあの雰囲気はどうにもハードルが高い……躊躇しているうちになあなあになって、しばらくしてまた興味が湧いてきて、以下繰り返し。そんな経験はありませんか?
実は、そんな人たちのレコード入門に最適なブックオフが急増中とのこと。レコード売場を設置・拡大する店舗が全国的に増えているそうなんです。
今回は関東最大規模のレコード売場がある、BOOKOFF SUPER BAZAAR 町田中央通り店(本・ホビー館)に伺ってきました。
なんでブックオフでレコードを?
ブックオフ商品部ソフトグループ
岩崎敏克さん
今回お話を伺う、ブックオフにおけるレコードの担当社員。同社随一のレコード狂としても知られ、パンク・ハードコアを中心としてオールジャンルに精通している。
――ブックオフにレコードを探しに来たことなかったんですが、かなり充実してますね!
岩崎さん(以下敬称略):そうですね。この町田中央通り店(本・ホビー館)は、特にレコードに力を入れている店の1つです。
――売り場に入ってまず目に入るのが入り口にあるプレイヤーですが、これって試聴していいってことですか?
岩崎:いいですよ! お店によって異なる場合もありますが、町田中央通り店では自由にお聴きいただいて構いません。(※)
――地味にありがたい話かも……。
岩崎:試聴コーナーは、当社がレコードに力を入れている証でもありますね。今日はじっくりお話しさせてください!
※ 試聴機の有無やご利用の際の条件などは店舗によって異なりますので、スタッフにお問い合わせください。
――レコード売場を拡大する店舗が増えていると伺ったんですが、今レコードを扱う店舗ってどれくらいあるんでしょうか?
岩崎:330店舗ほどなので、全体の約3分の1ですね。増えてきた理由はお客様に求められているからということに尽きます。数年前からレコードって本当にニーズが高まっていて。中でもブックオフでは、レコード専門店じゃないからこその役割というか、間口の広さとハードルの低さは意識してやってますね。
――さっきの試聴機なんかまさにですよね。専門店でも試聴可能な店舗は多いと思いますが、実際試聴できるかというと空気がどうにも、という。
岩崎:僕も専門店で試聴したことはないんですよ(笑)。 なんか怖いなって未だに思いますし、「あいつジャーニー(※1)なんか聴いてる」とか思われたらどうしようって気になっちゃって。
※1「ジャーニー」
70年代に活躍したアメリカのバンド。当時の売れ線ど真ん中な音楽性が「産業ロック」などと揶揄されがちだった。
――レコードマニアの方にもそういう人はいるんですね。
岩崎:その点「ブックオフならいっか」みたいな。リラックスできる場所だってことは最大限活かしたいですね。この間店舗を見回っていた際、レコード目的ではないであろうご年配のお客様が売り場の前で立ち止まって、楽しそうに試聴されているのを見たんです。「ああ、我々が目指していたお店のあり方だ」と思ってうれしくなりました。
――ブックオフだと、全国至るところにあるというのも大きいかもしれませんね。
岩崎:そうですね。レコード専門店の少ない地方都市のほうが喜んでもらえるんじゃないかと思って、売り場の拡大も地方から進めていきました。この予想がかなりドンピシャで当たって。仙台や秋田が今一番レコードの売れている地域です。売る方だけじゃなく仕入れ(お客様からの買取)にもつなげやすいですしね。レコードは地方にお住まいのお客様の押し入れにたくさん眠っていたりします。
――客層はどんな感じでしょうか?
岩崎:40代以上の、新譜をレコードで聴いていた世代の方は多いですね。他にもDJやコレクターの方が「あえて専門店ではなくブックオフで」と楽しんでくださってます。
――tofubeatsさんやNight Tempoさんの影響で昭和歌謡や昭和アイドルが再評価された流れもありますしね。
岩崎:あと、実は最近のJ-POPも人気ですよ。宇多田ヒカルさんやあいみょんさん、Adoさんなど、現役アーティストも続々とレコードでリリースするようになってきてますし。「ずっと聴いてきたB’zがレコードを出すから聴いてみよう」といった入り口の方も多いみたいです。
あと我々の大事な役割だなと思うのは、アイドルのレコードを取り扱うことです。
――というと……?
岩崎:最近女性アイドルの方がレコードを出すことも多いんですが、そういう商品がレコード専門店で大きく取り扱われるかっていうと?
――……あんまり想像できないですね。
岩崎:そういったレコードの売り先として、ブックオフに価値を見出していただくこともあります。「レコード専門店では買い取ってもらえなかったけどブックオフでは買取してもらえた」というケースを、結構耳にするんですよ。昭和アイドルのレコードもそういうふうに循環して今に至るんだと思うんです。
レコード狂店員のおすすめ盤を紹介!
――このあと実際に売り場でレコードをディグってみようと思うんですが、その前に岩崎さんのお気に入りをご紹介いただいて、レコードの楽しみ方をなんとなく掴んでおけたらと思います。
岩崎:いろいろと持ってきましたよ!
岩崎:わかりやすいところからいこうかな。これ、サザエさんのエンディングテーマです。
――あの「デデッデッデデ」ってやつですか? 最初はビートルズとかストーンズとかなのかなとてっきり。
岩崎:それはあとでとっておきをご紹介します! でもやっぱりレコード専門店ではまずフィーチャーされないようなものも出しておきたくて。これ、筒美京平さん(※2)の作曲なんですよ。
――えっ、そうなんだ!
※2「筒美京平」
昭和を代表する作曲家。「木綿のハンカチーフ」や「ブルー・ライト・ヨコハマ」、「また逢う日まで」などで知られる。
岩崎:サザエさんの曲だってことを意識せずフラットに聴くと普通にかっこいいんですよね。レコードだとものすごく小さい音も聴こえるので、奥でうっすら鳴ってるギターのカッティングが聴き取れてよりおしゃれですし。
こういうふうに、長寿アニメの曲やCMで使われてる往年の名曲なんかが実は音楽的におもしろかったりするというのが、レコードをディグっていると味わえることの1つですね。
――レアグルーヴ(※3)的な楽しみ方ですね。
※3「レアグルーヴ」
クラブ・ディスコミュージックの文脈で注目され、新たな価値を見出された古い楽曲のこと。日本においてはアイドルソングなど、リリース当時は批評性を軽んじられていたものも数多くある。
岩崎:とはいえ、音楽的に深いとされているものを狙いにいく必要はないんです。普通に自分が子供の頃に聴いていていい曲だと思っていたものをレコードで探してみてほしいですね。その中にレアグルーヴ的なものがあったり、実は後に大成するアーティストが関わっていたりってことがあるかもね、という順序なので。
――他にも古いアニメソングには隠れた名盤と呼ばれるものがちらほらとありますよね。日本最古級のレゲエと言われている「忍豚レゲエ」(久石譲作曲)とか。「おじゃる丸」の主題歌も実はレゲエですよね。サブちゃんだから単なる演歌だと思い込んで聴いてたけど。
岩崎:トラックがかなりレゲエですよね。それでいうと僕は「とんでぶーりん」の曲なんかかなり好きですね。
――ちなみに、先程おっしゃっていた「レコードだとものすごく小さい音も聴こえる」というお話をもう少し詳しく伺いたいんですが。
岩崎:専門家じゃないのでざっくりした言い方になるんですが、CDやデータだとノイズとして削り取られるような帯域の音も、アナログ(レコード)なら丸ごと含まれている、みたいなことかなと。よく「録音したときの空気感が伝わってくる」みたいな言い方をしますけど、その正体がこういった帯域の音なんだと認識してます。その味が好みならレコードを好きになれると思いますね。
岩崎:続いてはI HATE MY SELFというバンドの12inch LP。専門店で何気なくレコードを物色していたときに見つけたものです。これは曲そのものも好きなんですが、レコードの買い方のヒントとして提案させていただきたくて。
――というと?
岩崎:これ、裏見てください。曲目リストのところにThis isn’t the Tenka-ichi-Budokaiってあるでしょ。パッと見では読めなかったんですが、これ天下一武道会(※4)か! って遅れて気づいて。
※4「天下一武道会」
「ドラゴンボール」作中に登場する武術大会。
――ほんとだ。アルファベットで。
岩崎:聴いてみたら思いっきり自分の好みのジャンルの音で。こういう出会いがあるからレコードは楽しいんですよね。ジャケットの雰囲気や曲名の情報からたぶんこういう曲じゃないか? って予測して買ってみる。外れたら外れたで趣味が広がるきっかけになったりもして。
――たしかに。「ジャケ買い」ってやつですね。
岩崎さんと一緒にレコードをディグってみる
――では実際に売り場を回ってみようと思います。先程おっしゃっていたAdoさんやあいみょんさんのレコードが入り口付近にありますね。
岩崎:レコード専門店だともっと玄人受けしそうなものを面出しすると思うんですが、そこまでヘヴィな音楽好きじゃなくても入ってきやすいようにしたくて。あとは新品の一体型プレイヤーも入り口に置いてます。これがかなり売れてるので、レコード熱の高まりを実感しますね。安いもので7,480円(※)からあるので、ぜひ入門機として試してみてほしいです。
※ 価格は店舗や時期によって異なります。
――レコードっていうとジャズや古いロックのイメージが強かったですが、本当にバラエティ豊富ですね! これはBLEACHのサントラ?
岩崎:BLEACHのサントラ、いいんですよ。鷺巣詩郎(※5)っていう作曲家さんが手掛けてるんですけど。
※5「鷺巣詩郎」
ヱヴァンゲリヲン新劇場版シリーズ、アニメ「BLEACH」シリーズ、「シン・ゴジラ」「シン・ウルトラマン」の劇伴、「森田一義アワー 笑っていいとも!」の番組中に流れるBGMなどを担当した作曲家。
岩崎:もちろんレコードマニアが欲しがるようなものも置いてますよ。例えばこれ。
岩崎:ビートルズ「イエスタデイ・アンド・トゥデイ」の「ブッチャーカバー」と呼ばれるエディション。38万円ですね(※取材時点)。
――38万円!
岩崎:元々のジャケットは「白衣を着たメンバーが肉片に塗れて不気味な赤ちゃんの人形を持っている」というどぎつい代物だったんです。発売後すぐに回収命令が出たんですが、ごく少数、生産が済んでいたものは上から別のジャケットを貼ってリリースされた。……というのがこれです。光に透かすと元のカバーがうっすら見えるんですよ。
――回収命令が出る前に市場に出回ったものが高値で取引されるというのはスニーカーの回でも伺いました。
岩崎:もう1つご紹介しますね。名ベーシスト、ジャコ・パストリアスのサイン色紙つきレコード。この端っこに適当にサインを書いた感じがいかにもジャコっぽいなと思えて個人的におもしろかった商品です。昔のアイドルのレコードでも、サイン色紙が入っているものはちらほらと見かけますね。当時の空気感を味わえるというか、今と過去が繋がるように思えて好きです。
――素敵ですね。ある種のタイムマシンみたいな。
岩崎:あと、こういったレア物に関してもブックオフなら比較的安く手に入ると思いますよ。
――断言!
岩崎:レアなレコードは需要がある分、どんどん値段を吊り上げていきがちなんですが、当社は安易にそこに乗らないと決めているんです。過剰にそれをやっちゃうと市場にとってよくないなと。
――けっこう「ブックオフは店員さんがよくわかってないから安い」みたいなふうに語られがちですが、そうではなく意図してやっているんだと。
岩崎:生産数が多いものであれば、詳細にチェックしていない商品もあるかもしれませんが、掘り出し物が生まれる状況を作りたくてあえて安く値段を設定しているものはありますね。
岩崎:これにも触れておきたいですね! 「裸体」っていうバンドのレコードなんですけど。これはフジロックにも出演経験のあるブックオフ社員がボーカルを務めるバンドなんです。2022年10月にフルアルバムをリリースしたので「せっかくならブックオフからレコードを出しましょう」となって、実際リリースされたものです。
――副業を認める会社がじわじわと増えはじめた時勢に社員をレコードデビューさせる会社は斜め上ですね。
時代を超えるタフさが、レコードの魅力
――ブックオフで音楽を探すとなるとやはりセール品のコーナーが気になります。
岩崎:セール品のコーナーだけ見て帰る人もいるくらいなんですが「ちょっと待って」と言いたいです。最近は、通常価格で販売している棚に宝探しの旬のスポットが移ってきています。
――それは初耳でした!
岩崎:ネットの影響でセールコーナーがいいらしいという噂が広まったのはありがたいことなんですが、むしろ通常価格のレコードが陳列されている棚の方に相場より安いものが転がっている可能性があるので、ぜひこっちを楽しんでほしいですね。セール品コーナーは商品を探しにくいと思いますので「少しでも見やすい棚で宝探しを楽しんでいただきたい」ということで、最近は意図的におもしろいものを移動させていたりします。
――公式からのアナウンスとしてこういう情報が出てくるの、ありがたいし珍しいですね。通常価格の棚には、どういったジャンルのレコードが多いのでしょうか?
岩崎:やっぱり昭和歌謡やシティポップですね。シティポップ再評価のムーブメントにより、新型コロナウイルスの蔓延前はかなり海外からお客様が来られてました。今はその余波で、同時期に聴かれていた山口百恵さんなどの昭和アイドルに注目が広がってきている気がします。
岩崎:あと不思議なんですけど、売れているレコードと同じ内容のCDが隣のCDコーナーにもっと安く置いてあっても全然売れないんですよね。レコードの魔力なのかなんなのか、我々も理由が掴みきれていないところです。
――興味深い現象ですね! ジャケットが大きくて絵がよく見えるというのは1つあるのかも。オタクがクリアファイルを買うのと近いニーズというか。
岩崎:ああ、それあるかもしれないですね。
――最後に、岩崎さんの思うレコードの魅力とはなんでしょう!
岩崎:まずはモノとしてのタフさですね。盤面が擦り切れるとか針が飛んじゃうとか、取り扱い注意な要素にフォーカスして語られがちですが、50年前のものが今でも楽しめるってなかなかないことだと思うんですよ。
――確かに、スニーカーだととっくに加水分解してボロボロになっている年月ですし、家電やおもちゃでもそうですよね。
岩崎:それに、安いものだと100円くらいで購入できることも大きな魅力だと思います。ガシャポンをやるかのように、まずは直感で気になったものを買ってみてほしいですね!
まとめ
新しい趣味のジャンルに初挑戦した日の帰り道、アウェイな雰囲気に耐えきれずに何もわからないまま撤退して、手応えのなさを噛み締めたことが幾度となくあります。
その点ブックオフでレコードを始めれば、少なくとも気軽に試聴ができる。それで何かがわかるようになるわけではなくても、ワクワクした気持ちだけは持ち帰れる。
「初心者の人でも手軽に楽しんでほしい」と、レコードに触れる機会を提供する全国展開のお店があることは、けっこうラッキーなことなのかもしれません。
[今回取材したお店はこちら]
BOOKOFF SUPER BAZAAR 町田中央通り店(本・ホビー館)
1月28日にリニューアル!今回ご紹介したレコード売場が新しくなったほか、ホビー・トレカコーナーが約2倍に。 またトレカ対戦スペース64席・ガシャポン306面が新設されたので、ぜひ遊びに来てください。
住所:東京都町田市原町田4-4-8
電話:042-739-4580
営業時間:10:00~21:30
HP:https://www.bookoff.co.jp/shop/shop20424.html
TEXT:ヒラギノ游ゴ
PHOTO:山﨑美津留
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