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lightmellowbuのハタさん、タイさん、台車さん

lightmellowbu(ライトメロウ部)
2018年5月に発足したシティポップ(※1)好きの集団で現在16名。音楽ライター金澤寿和さんの提唱する都市型音楽”light mellow”の概念を継承し名付けられた。既存のシティポップ観にとらわれず、80年代後半から2000年代半ばにかけて制作された<知られざる>シティポップ作品をレビュー。共同ブログでのレビュー掲載やジン(※2)の刊行のほか、様々なDJイベントやトークショーに参加。2020年1月には、初の著書となる『オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド 』(DU BOOKS)を刊行。メンバーたちはブックオフをはじめとした中古CDショップに通い詰めている。

※1「シティポップ」
主に1970年代後半から1980年代にかけて日本でリリースされた、ポップスの一形態。諸説あるが、都会的に洗練されていて洋楽志向のメロディや歌詞を持ったポピュラー音楽を指すことが多い。

※2「ジン(ZINE)」
個人で制作する小冊子などのこと。

2020年1月に刊行した『オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド 』(DU BOOKS)。
2020年1月に刊行した『オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド 』(DU BOOKS)。

いいものも悪いものも評価していたハタさんと唯一の読者の出会い

――lightmellowbuの皆さんは、それぞれ住んでいる場所もバラバラだそうですが、どんな風に集まったのですか? 

ハタ:そもそもは僕個人のちょっとした好奇心からです。一般的に、シティポップの黄金時代は70~80年代で、この時期の作品については色んなところで言及がなされているんです。

でも、90年代のシティポップの場合、インターネットで探しても、全然情報が出てこない。「なぜだろう?」と調べてみたところ、「90年代は玉石混交だったから」という理由だったんです。

――いいものもある一方で、そうでないものもたくさんあった、と。

ハタ:はい。90年代は日本でCDが一番出ていた時代なのでね。

それで、「もしかしたら、僕以外にも同じ興味を持っている人がいるんじゃないか?」と思って、2014年頃『90年代シティポップ記録簿』というブログをはじめたんです。
この時代のシティポップって、中古CD店、それこそブックオフに売りに出しても値段すらつかない作品が本当にたくさんあるんですよ。ブログでまとめていくことで、そういった作品にも価値が生まれて、市場に生き残る可能性も出てくるんじゃないか、と思ったのも動機の一つでした。

――値段がつかない作品にも、素晴らしい作品はたくさんあるということですよね。

ハタ:そうなんです。僕らが知らない間に、本当は素晴らしいCDがどんどん捨てられているとしたら、それってすごく悲しいことじゃないですか? 値段がつけられずに忘れられてしまう音楽を、少しでも減らしたいんです。

色んなCDに生き残ってほしいですし、多様性がもっと認められるようになってほしい。
それからしばらく経って2018年頃、ブログを見てくれていた台車さんが、Twitterから連絡くれたんです。

台車:ハタさんがやっていたブログは、自分が気に入ったものだけを紹介するのではなく、「いいものも趣味に合わなかったものも、すべてを情報として残す」というものでした。当時のハタさんはものすごいスピードでブログを更新していて、僕はそれを毎日見ていて。

ハタ:実はその頃、ブログのアクセス数はほとんど毎日0か1だったので、「更新頻度を上げてみよう」と思っていた時期だったんです。

――ということは、唯一の読者は台車さん……?

ハタ:それしか考えられないと思います(笑)。台車さんに会って、「本当に読者っていたんだ」と純粋に嬉しかったです。

インタビューに答えるハタさん
福井県在住のハタさん。lightmellowbuの中心メンバーであり、結成以前から『90年代シティポップ記録簿』というブログを運営していた。

ハタ:台車さんとは「オフ会」と称して2日間かけて福井県のブックオフを巡ったんです。

僕は普段からブックオフ巡りをしてたんですが、意外と気づかずに掘り出し物をスルーしていたりもするんです。それを台車さんが見つけたりもしましたね。あの作品、何でしたっけ?

台車:中野麻衣子さんの『Bay Side Story』ですね。

インタビューに答える台車さん
兵庫県在住の台車さん。5・6年前にフォークからシティポップに移行した

ハタ:そうそう。あれは許せないなぁ(笑)。

台車:欲しいものが似ている同士だと奪い合いになりかねないので、一緒に行くものではないかもしれません(笑)。

ハタ:そんなこんなで「同じことを感じている人は僕ら以外にもインターネット上にいるはずだから、そういう人たちを集めて共同ブログを立ち上げよう」と話したのが、lightmellowbuのはじまりです。

lightmellowbuの集合写真
lightmellowbuは現在16名。写真は2020年1月に島根・出雲を拠点とするレーベルLocal Visionsとイベントを行ったときのもの。ハタさんはこの日欠席

――タイさんはどんな風にlightmellowbuの活動に参加することになったのでしょう?

タイ:僕はlightmellowbuができて半年ぐらいしてから入ることになりました。

もともと、シティポップ関連のブログは見ていたんですけど、僕らよりも年齢が上の人たちがつらつらと運営しているものばかり。だからハタさんのような若い方がやっていることが新鮮で、よくない作品についてもまとめているところが印象的でした。
当時、ブックオフでよく見かけるようなCDは本当に情報がなくて、それがいいのか悪いのか、まったく分かりませんでした。だからこそ、いいものもよくないものも載っているハタさんのブログは、作品を手にするときの参考になったんです。

大阪府在住のタイさん。働き始めてから、シティポップを聴くことが癒しになった。

「ディグる」とは?

――そこからlightmellowbuの活動をする中で、皆さんは「ディグ(※3)する」ことについてどんな楽しさを感じていますか?

※3「ディグ」
dig(=掘る)こと。ここでは、ブックオフや中古CDショップでCDを探す・発見すること。

ハタ:僕らが好きな音楽は、どんな作品なのかという情報がなく、実際に作品を買って聴くことでしか内容を確かめられません。だからこそすごくいい作品に出会うと、すごく印象的な体験になるというか。

そういう意味では、一生終わらない宝探しのようなものかなとも思います。目星をつけているものだけでも、欲しい作品がまだまだ2,000枚以上ありますし、それはこれからも増えていくだろうと思います。なので、ゴールのない探求の楽しさも感じたりします。

ハタさんのCD棚
棚にぎっちり詰まったハタさんのCDコレクションは、4,000枚以上。そのうち7割程度がブックオフで購入したものなのだとか。「結局一番安いんですよね」とハタさん。

台車:「思い出になる」というのもありますね。実際に店舗に行って作品を見つけるのは、ネットでのディグとも違って合理的ではないところがかえって魅力的。
ブックオフでの体験って、まさにその極致というか。通常のレコード店では在庫に店主の趣向が出ますけど、ブックオフにはいい意味でそれがなくて、ランダム性があるのがすごく楽しいと思います。

――ブックオフの場合、各店舗に作品を売りにくる人々の好みが棚に並ぶわけですから、土地や地域ごとにカラーが違ってきたりしますよね。

ハタ:そうなんですよ。そこに図らずも地域性が出てくるというか。

台車:どの店舗に何があるのかも、実際に行かないと分からないのは面白いと思います。

BOOKOFF 秋葉原駅前店で『Why Not?』(Good Music Recordsのコンピレーション・アルバム)という、インディーズでしか流通していないコンピレーションをたまたま見つけて、280円で手に入れたことがあります。あれは感動したなぁ(笑)。店舗によって値付けが違うのも楽しいですよね。

台車さんのCD棚
ぬいぐるみがかわいらしい台車さんの棚。 実はCDを集め始めたのは最近。それにもかかわらず、既に1,500枚入る棚がいっぱいになっているそう。

タイ:70年代や80年代のシティポップはすでに評価が定まっていて、既に色んな人が共有している感があります。

僕も、もともとはそうした時代の名盤をブックオフで見つけて買ったりしていました。そんな風にブックオフに通う中で、そこに置いてある90年代のシティポップにも興味が出てきたんです。興味の幅が広がることも、実店舗でディグする楽しさかもしれません。

ハタ:ブックオフって、文化の最終到達地点だと思うんです。CDってアルバムだと元値は3,000円ほどですから、9割引きぐらいの状態でブックオフに並ぶ作品も多いと思います。
そして、中には一時期ものすごく流行ったけれども時代とともに忘れられてしまった作品もあれば、内容的にはいいのに色々な理由で安くなっている作品もあります。
そんなふうに、玉石混交で色んな経緯を辿った作品が集まっているのが、見ていてすごく面白い。まだ聴いたことがないものに出会うことが、大きな楽しみになっているんです。

タイ:そういうフロンティア精神ですよね。90年代以降のシティポップの中から、そういうものを見つけていくという。

タイさんのCD棚
おしゃれにレイアウトされたタイさんのCD棚。コレクションは500枚ほどだそうだが、「部屋を圧迫していることには変わりないので、家族は喜んでいない」とタイさん。

――ちなみに、皆さんはどれくらいの頻度でブックオフに行かれるんですか?

ハタ:僕はよく「平日は家と仕事の往復で、休日は家とブックオフの往復」と言っていて(笑)。

休日はいつもブックオフに向かいますし、緊急事態宣言の期間中などは、ブックオフオンラインなどを使ってオンライン上でディグをしていましたね。新着CDでソートして、一個ずつ見てシティポップっぽいのを探すんです。

台車:コロナ禍以前は週に一度は通っていました。遠征するのも好きで、その土地出身のアーティストのCDが多いのを見たりして。

タイ:僕もコロナ禍以降、頻度は減りましたが、仕事で外出したときにお昼ご飯を食べる時間を我慢して、ブックオフに行ったりしていましたね。

――ディグる際にほしいものを見つけやすいテクニックや、皆さんの間での「ブックオフあるある」があれば教えてください。

ハタ:僕らの場合は、90年代のCDなどを探していくんですけど、まずは背表紙が黄ばんでいるものを探します(笑)。

パッと見た瞬間に、自分たちのほしいものがあるかがだいたい分かるんです。

台車:そういえば、京都の大学が近い場所の店舗に行ったときは、学生のお客さんが多いせいか、パッと入った瞬間に棚の色味が真っ白でなんか違いました。

ハタ:僕らの場合は、セピア色じゃないとダメなんです(笑)

CDを見せるハタさん
これがハタさんの求める黄ばんだ白。ZOOM越しなのでわかりづらくてゴメンナサイ!

タイ:あとは、ア行から最後のところまでじっくり見ていくので、一度店舗に入ると、1時間ぐらい棚を見ていることもありますね。

ハタ:そうそう。シングルCDコーナーも洋楽コーナーも全部見て、児童向けのコーナーも一応見たりします。なぜならお客さんが手に取ったCDをまったく別の場所に戻したりすることがあるから。

あと、掘り出し物を見つけるときって、オーラを感じる瞬間があるんですよ。これは、何年もブックオフに通ってディグしているからこそだと思うんですが、予感がするというか。ま、オーラを感じた作品を購入してみたら自分の趣味には全然合わない場合もあるんですけど(笑)。

ブックオフとは、漁港であり、ポケモンセンターであり、福祉?

――皆さんがこれまでブックオフで作品を手に入れた思い出の中で、特に印象的だったものがあれば教えてください。

ハタ:僕の場合は、BOOKOFF 福井板垣店(※4)で見つけた『アンサンブルクルーズ クルーズブック2』という、ヤマハの音楽教室で使われている練習用のCDです。実は演奏がよくて、シティポップとして聞けるなという。これを見つけたのはすごくいい思い出でした。

※4「BOOKOFF 福井板垣店」
2021年2月14日惜しまれつつ閉店

CDを見せるハタさん
110円で購入したという『アンサンブルクルーズ クルーズブック2』。

台車:僕は、車で四国まで一人でブックオフ巡りに行って、たしかBOOKOFF 徳島川内店だったと思うんですけど、SHAMBARAのアルバム『シャンバラ』を見つけました。

ハタ:ああ、その作品いいよね……!

タイ:(同じく『シャンバラ』を取り出して見せてくれる)

 SHAMBARAの『シャンバラ』
台車さんとタイさんの思い出に残っているSHAMBARAの『シャンバラ』

――おお、皆さん持っているんですね!

台車:この作品と、川村康一さんの『HAVE A GOOD-TIME』を一緒に手に入れられたのが、すごく嬉しかったです。音楽を買い漁ったりする人って、基本的には都市圏に暮らす人が多いと思うんです。でも、そういう目利きの人たちから零れ落ちた作品が郊外のブックオフにあって、実はそういう場所に行かないと得られないものもある、と言いますか。

川村康一さんの『HAVE A GOOD-TIME』
川村康一さんの『HAVE A GOOD-TIME』

ハタ:結構そういう郊外のお店の方が、いいものがあったりするんですよね。僕らみたいなものに荒らされていないというか(笑)。たとえるなら、その土地の手つかずの自然というか、手つかずの音楽文化に触れられる機会なんだと思います。

台車:なので、一見誰も買わないだろうと思う作品でも、処分しないでブックオフに売ってほしいな、と思います。その作品を必要としている人が、どこかにいるかもしれないので。


そうやって、店舗にものとして残ってくれることで、20~30年経ったときに、当時は人気がなかった作品が、多くの人の感性に合う瞬間が来たりすることもあると思うんです。そんなふうに、作品が熟成されていくというか。だからやっぱり、ブックオフがないとダメだな、と思ったりします。

タイ:ブックオフって、地方都市の幹線道路沿いに店舗があるイメージがありますけど、日本だとそういう場所って、「どこの街に行っても同じ景色が広がっている」という風に、文化的には一見ネガティブに捉えられたりします。
でも、実際に各地のブックオフに入ってみると、その土地の人たちが楽しんだ作品が一つの店舗に集まっているのはいいなと思いますね。半分妄想かもしれませんが(笑)。

笑顔のタイさん

台車:ハタさんも、タイさんもそうだと思うんですけど、地方に住んでいると、ブックオフがあることって本当に大きくて、小説やマンガや音楽のようなカルチャーに出会うためのチャンネルとして、本当に重要な場所になっていますよね。

ハタ:そうですよね。サブカルチャーの受け皿になってくれているというか。しかも、最終的にブックオフにCDが到着して、でもそこで終わりなのではなく、またそこから作品が誰かの手に渡って、新しい文化が生まれていくというー―。その侘び寂びが、すごく面白いな、と思います。

――皆さんにとって、ブックオフはどんな場所だと思いますか?

ハタ:自分にとっては、漁港ですね(笑)。世の中にある音楽作品って、大海原のようなものだと思うんです。だとしたら、ブックオフはその土地にある、色んな人たちが色んな思いで手にしたCDが集まる場所で。そういうキュレーター的な存在なのかな、と。そのときに、ブックオフ自体に自我がないというところが、すごくいいな、と思います。

タイ:僕にとっては……ポケモンセンターのようなものですね。新しい土地に行ったら必ず寄るところですから。

台車:僕にとっては、福祉です。ブックオフで新しい作品を探すことは癒しの時間になっているので、本当に癒される場所になっていると思います。

ハタさん、タイさん、台車さん
本日はありがとうございました!

TEXT:杉山仁
PHOTO:lightmellowbu、ブックオフをたちよみ!編集部

lightmellowbu運営のブログ:ディスクレビュー(disk review)

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