こんにちは、ブックオフでコンテンツ制作をしている普通の社員、伊藤です。
最近マレーシア版のブックオフ「Jalan Jalan Japan」(以降:JJJ)の8号店ができた! と耳にしまして、私は思ったのであります。「マレーシアにもJJJにも行ったことないけど、どんなところなんだろう~」と。ハイ、ということで取材しちゃいました。
お話を聞いたのは、JJJの立ち上げに関わった3名です!
井上徹さん
2000年にブックオフコーポレーション株式会社に入社。BOOKOFF SUPER BAZAAR 町田中央通り店など数店で働き、業務部(当時)や 経営企画部などを経て、現在は執行役員兼R室室長。JJJを運営する現地法人BOK MARKETING SDN.BHD.の元代表でもある。
守隨(しゅずい)大地さん
2002年にブックオフコーポレーション株式会社に入社。BOOKOFF PLUS 西五反田店など数店のほか、英語力を生かしてBOOKOFF ニューヨーク西45丁目店やUSA本部にも勤務。現在はR室マレーシア事業推進グループのグループ長兼BOK MARKETING SDN.BHD.の代表。
小野沢孝治さん
2000年ブックオフコーポレーション株式会社に入社。BOOKOFF 八王子堀之内店、BOOKOFF SUPER BAZAAR 川崎モアーズ店など10店舗以上を経験。本部では教育研修室、リユース事業部などに勤務しJJJの立ち上げにも尽力した。R室マレーシア事業支援グループのグループ長。
マレーシア版ブックオフ!? Jalan Jalan Japanってどんな店?
――今日はJJJのこと、たくさん教えてください。そもそも、なぜマレーシアに出店したのでしょうか?
――「最高」ってすごいですね。どうしてそう感じたんですか?
井上:1号店オープンのとき、JJJは全く知名度がなくてスタッフが集まらなかったんですよね。でもコイケさん(※1)の現地の若手が来てくれて、一緒に汗をかきながら立ち上げに貢献してくれた。一緒に汗をかくっていうのは、すごく大事なことだと思っています。
彼らとの飲み会で、私が「help us」と言ったんですよね。そしたら日本語で「“help”って言わないで。“一緒に頑張ろう”って言ってください」と言ってくれて。「おおっ!」と思いましたね(笑)。言葉通り、今でも困ったことがあったら気軽に相談に乗ってくれるし、僕らも全力でお応えしようっていう。良い人間関係が築けていますね。
※1「株式会社コイケ」
国際物流や輸入代行業を行い、マレーシアに現地法人KOIKE Malaysia SDN.BHD.を持つ。JJJはこの2社とブックオフコーポレーション株式会社による合弁会社BOK MARKETING SDN.BHD.で運営されている
――かっこいい! いい話 ですね~
井上:現地に行って「店を出したら売れそうだな」と感じたことも理由の1つです。マレーシア人の価値観やライフスタイルとJJJがマッチしそうだと。あとは何千万という金額を投資するので、絶対に成功させたかったというのもあります。マレーシアではビジネスがしにくいのか、競合相手も少なかったんですよ。
――「Jalan Jalan Japan」は、マレー語ですよね。どういう意味なんですか?
井上:Jalanは「道」、「Jalan Jalan」だと「散歩する・ぶらぶらする」という意味です。現地で コイケの人たちと夜遅くまで飲んでいて、明日には日本に帰るから店の名前だけは決めておきたいと思っていて。ブランディングや世界観について話していたら、NA(ナー)さんという方がボソッと「Jalan Jalan」って呟いたので「それだ! 」と。
――それで「Jalan Jalan Japan」に?
井上:そう、ぐでんぐでんに酔っぱらっているときに決まったんです。語呂もいいしね。決起会のときはJJJコールも起きたりするんですよ。周りからは「井上さんが一番いい仕事した瞬間だった」と言われていますね(笑)。
――手厳しい(笑) どんなものを販売しているんですか?
小野沢:雑貨・おもちゃ・ベビー用品・食器・スポーツ用品・小型の家具とか、バッグ・靴・ベルト・帽子などの服飾雑貨ですね。日本の着物も取り扱っています。着物をマスクにして日本文化を届けよう、という取り組みもしているんです。
守隨:着物の生地を使ったクッションとかもあります。work from home(リモートワーク)中に、アイデアが出てきたんです。とても人気があるんですよ。
――あとは、どんな商材が人気なんですか?
小野沢:おもちゃはすごく人気があります! バッグと靴も、売れていますね。
――どんなお客様が利用されているんですか?
井上:家族連れが多いです。マレーシアでは家族で来店して、長時間買い物をするっていうのが本当によく見られる光景ですね。かごいっぱい買っても2,000円くらいですし。
――安い! 子供も「パパ買って~」って言いやすいでしょうね。現地の方の反応は?
井上:新店オープンの日に、初めて来店されたお客様に「どうせ、こんなに安いのはオープンの今日だけだろう?」って言われたことがあります。それを聞いたときはニヤッとしてしまいましたね。「Forever!」って返しました(笑)。
守隨:お客様には「閉店セールなんだろ?」と聞かれることもありますよ。
――安さにビックリされているようですね。
井上:質の良い日本の商品がたくさん、しかも安く手に入るので、現地の方には本当に人気があるんです。
カルチャーショックで、ほっこり&アワアワ!? マレーシア奮闘記
――JJJとブックオフ、ズバリ一番の違いは?
守隨:お客様から品物の買取をして売るのではなく、中古品をマレーシアに輸入して販売しているので、全く違うビジネスなんです。
井上:商品の回転率が、めちゃくちゃ違います。ブックオフの直営店では月間に在庫の15~20%が売れるんですが、マレーシアだと80%が売れるんです。回転率が約4倍 も違う。
――陳列したらどんどん売れていくんですね。
小野沢: 廃棄量が減るから地球環境に優しいし、現地の人にもすごく喜んでもらえる。3年くらいマレーシアにいましたが達成感・やりがいは、ものすごく大きかったですね。お客様からの熱い気持ち、期待も感じていました。
――お客様の雰囲気や、文化的に違いはありますか?
守隨:お客様が熱くJJJを応援してくれるのも、大きな特徴です。街中で「Daichiさんですよね?」って声を掛けてくれて「私のホームタウンにお店を出して」と言ってくれることも多くて。
小野沢:従業員とお客さんの垣根がないとも言えますね。すごくフレンドリーで、日本人に対して、とても友好的なんですよ。お客様が、僕らの家族まで食事に招待してくれるんです。元旦の翌日とかハリラヤ(※2)明けとか、すごく大事な日に料理を振る舞ってくれて……本当、温かい というか。
※2「ハリラヤ」
断食の終わりを祝うイスラム教徒の祝日
井上:僕は そのとき、お腹痛くて行けなかったけどね(笑)あとさ、ピークが夕飯後だよね。マレーシアって屋台で夕飯食べてその後に来店するケースが多いんですよ。夕方に「お客様がいなくなってきたな~」と思ったら、夜8時過ぎにバーッと混み始めたり。
そして、朝はお客様が来店されない傾向がありますね。
小野沢:確かに、朝はお客様が少ないです。立ち上げ当時は朝、時間通りに来ないスタッフさんもいました……(笑)。
――朝は、スタッフさんも来ない……? 時間にゆっくりなのでしょうか。
小野沢:南国気質なんですよね。寛容性というか受け入れてくれるというか。バスは時刻表自体がなかったりします。
――のんびりなんですね。
小野沢:1号店の立ち上げでは、僕と守隨さんがスタッフの面接をしたんですけど、時間通りに来る人はいない。日本では面接に遅刻してくる時点でアウトですが、マレーシアでそれをやると働く人がいなくなっちゃうんです。
面接にはカップルで来たり、ごつい友人を一緒に連れてきたりします(笑)。日本だと信じられないじゃないですか?
――呼ばれてない人も、面接に来ちゃう?
小野沢:彼氏や友達と一緒に働きたい人が多いんですよね。移動手段がなくてバイクで一緒に通勤したりするので。連れが辞めると一緒に辞めちゃう場合もあります。彼氏が辞めても、彼女の方が長く勤めてくれることもあるんですが。
井上:女性が強い社会だと感じますね。とにかく、よく働く。JJJの8割くらいが女性スタッフですし、マネージャー職もほとんど女性です。
あとは国民の60%強がイスラム教徒なので、彼らの宗教上の習慣が売上に大きく影響することも多いですね。断食の月(大体5~6月)はお客様があまり来ないんです。
小野沢:その時期は、休憩中のスタッフも寝ていることが多いですね。
現地では危ない目にも相当遭っています。僕と守隨さんは20時間くらい話せますよ!
守隨:小野沢さん死にかけましたよね?(笑) 小野沢さんは被害者なんだけど、追突してきた車の人に怒られて。
小野沢:そうそう。夜10~11時くらいに追突されて電話で連絡してたら、相手が突然キレて、僕を高速道路にバーンと押し倒してきて、トラックの荷台からは屈強な男たちがゾロゾロ出てきて。「やばい!」と走りながら車をロックして、逃げました。
守隨:小野沢さんが逃げて戻ってきたら、また違う外国人グループが小野沢さんを待ち伏せていて「俺のところで修理するぞ」と(笑)。保険会社みたいな感じです。断るとそれも危ないんですよ。
――もう、どうしたらいいんですか(笑)。
小野沢:スタッフが店舗でちょっと問題を起こしたときに、お客様の一族が乗り込んで来られたこともありました。シリアスで、僕も守隨さんもビビってガチガチになってしまって……。
――えっ。
小野沢:でもそのご家族の中に、日本の学校のジャージを着ている方がいたんですよね……。そのジャージに「井上」って書いてあって(笑)。
――シリアスになりきれない(笑)。
小野沢:あとは男性スタッフが女性スタッフを指導したりすると「あまり近付くな」と怒られたりもしますね。彼氏が送り迎えしていることも多いから。
守隨:こういうことは、割と多いですね。月に3~4回起きたりします。慣れましたけどね。
「人財」を大切にするブックオフ 違いを乗り越えられたワケ
――いざ立ち上げを迎え、国民性や国柄の「違い」で戸惑ったことは?
井上:万引きが多い。パートナー企業の方には「日本で万引きする人が5%くらいだとしたら、マレーシアでは20%くらいいると考えたほうが良い」と言われました。お客様が商品の靴を履いて帰っちゃうから、商品棚の 下に汚い 草履がいっぱい隠してあったりするんですよ。ベビーカーが毎日1台ずつなくなったり……小さな子供を連れてきて、乗せて帰っちゃうんです。
――わあ。ダイタンですね。
守隨:靴もズボンもシャツもバッグも一式全部万引きして、自分の荷物を置いて帰っちゃったお客様もいました。その中に免許証が入っていた(笑)。
――うっかりすぎる(笑)。
井上:お客様がプライスタグを千切ってしまうので、よく床にたくさん落ちていましたね。そのままにしておくと「盗ってもいいんだ」と思われてしまう。今はスタッフに「クリーニング」という役割があります。常にお店を回ってタグを集めるんです。地道に続けて、万引きは減ってきましたね。
小野沢:スタッフの間でも、不正はたくさんありました。
井上:仕事をしてくれなかったり、商品を盗まれてしまったり。
――日本なら解雇、というところですが……。
小野沢:暴力・セクハラなどはもちろん一発アウトですが、ほかのことなら、現地では「なるべくチャンスを」と思っているんです。
以前、遅れてきた男性スタッフに「時間に遅れたけど……」と軽く話したら泣いてしまって、翌日から来なかったんですよ。日本と同じやり方を通そうとして、失敗したんです。人に合わせて話をするっていう姿勢は、本当に失敗から学んできましたね。
守隨:僕は日本人とマレーシア人の違いについて、たくさん勉強しました。日本は島国なので同調圧力のようなものがありますが、マレーシアは南国だし多民族国家なので、同調圧力ってあんまりないんですよね。現地の企業とは、約束した時間の20分後にミーティングが始まればオンタイム。
井上:日本人が異常なのかもね。マレーシアにいると、すごく神経質な自分を感じますよ。細かく考えて悩む方がバカなんじゃないかって。
小野沢:以前は相手が遅れたら、気分を害したり嫌な顔したりしてました。でも今は「わざと遅れたわけでもないんだから、良いミーティングさえできればいいや」と思えるようになりました。多様性を受け入れられるようになったのかなと思いますね。
井上:そこまで深刻に考えなくてもっていうね。「真面目すぎるから、もっと肩の力を抜け」と言われます。
守隨:努力と成功が比例しなくなって限界を感じていたことがあるんですけど、現地の方に「難しいことをする必要はない」と言ってもらえて……。むしろシンプルなことに成功を見出している人が多いんですよ。尊敬できる人もたくさんいるし、すごく勉強になりましたね。
――違いを体験したからこそ得られたものが、たくさんあったんですね。
井上:自分では180度変わったと思っています。マーケティングや組織運営をする上で「人の内面」をとても意識するようになりました。
お客様の笑顔を見るのもめちゃくちゃ好きになったし、スタッフさんから「JJJに入社してよかった」って言ってもらえると、すごくうれしい!創業者で社長でもあったので、ものすごく使命感が芽生えていて「しっかり会社を守っていかなければ」と、強烈に意識するようになりましたよ。
――スタッフさんは、どうして「入社してよかった」と言ってくれたんですか?
守隨:月末にスタッフ全員が集まるんですが、ランチを配ってみんなで食べているんです。卵を1パック支給したり、ケーキを買って誕生日のスタッフを祝ったりもします。給料日前でお金がないときだし、親御さんから離れて働きに出て来ている人も多いんですよね。マレーシアでは「食べる」ということを非常に大切にしているので、とても喜んでもらえるんです。
あとは昇給するメンバーを発表したりとか、月に一度朝の勉強会をやったりとか、そういうことを1つのサイクルにして、みんなで一緒に働いています。
井上:いろんな人が集まっているから、一枚岩になりにくいのがマレーシアの特徴でもあるのかな、と思うんですよね。それでもチームとして一体化できたのは「ご飯を一緒に食べよう」「みんなで一緒に楽しもう」という精神で、地道に向き合ってきたからだと思います。そういうイベントにお金を出し惜しみしたくなかったんです。
小野沢:現地の方に「スタッフさんのことは、ユニフォームに貼ってある背番号で呼べばいいからさ」って言われたことがあるんです。でも僕たちは違和感があって、彼らの名前を覚えてご飯食べに行ったりしていた。
「給料は上げなくていいし仕事も教えなくていい」とも言われましたが、仕事で頑張っていたら、もちろん給料を上げました。
守隨:「自分のポジションを奪われる」と思っていて、マレーシアでは仕事を教えない会社が多いんです。JJJでは日本のブックオフと同じようにキャリアパスプランがあるので、ちゃんと教えるし、昇給も昇進もする。それは大きな違いだと思います。
井上:日本の現地法人だと管理職以上は全員日本人というケースも多いんですが、僕は「みんなが役員になってくれたらうれしい」と公言しているので、ぜひ頑張ってもらいたい。まさに物心両面(※3)なんです。これをしっかりやらないと。
昨年の話ですが、現地がロックダウンされて2カ月も休業したんです。会社の売上としては、相当な 損失でした。でもJJJでは「ボーナスを払う」って決めたんです。結果、すごい反響でした。「ビジネスフィロソフィー(※4)は本当なんですね」と言ってくれたスタッフもいて。
※3「物心両面」
ブックオフの経営理念(ビジネスフィロソフィー)である「全従業員の物心両面の幸福の追求」のこと。「物」は金銭・物といった形に見えるもの、「心」は充実感・やりがいなど心に関係することを指す
※4「ビジネスフィロソフィー」
ブックオフの経営理念のこと
守隨:辞めたメンバーから日常的に「帰ってきたい」と連絡もらったりしますね。「戻ってきたいんだけど、どうしたらいい?」 と。あと社員が、ほとんど辞めない。マレーシアは長く勤めない傾向があるので、珍しいと思います。
井上:「この会社で働いてよかった」って言ってくれる人は、本当に多いです。冥利に尽きますよね。やってよかった。こういう声を潰してはいけない、と心から思います。
目指せ20店舗! さらにその先へ……!
――JJJがマレーシアで成功している理由は?
井上:大きな店舗に質の良い商品がたくさんあって、しかも安い。こういうパッケージはマレーシアにはないんです。現地のショッピングモールがそれに気付いて「出店してほしい」と言ってくれるようになったんですよ。最近特に増えてきています。
――競合相手が全くいない?
井上:真似しているところもありますが、失敗していますね。値段を下げたら商品は売れるし、売れたら補充しなきゃいけない。補充するのには人力がかかりますよね。安い商品に手間をかけられないのが普通ですけど、その点ではブックオフというベースがしっかりあったわけです。JJJの競争優位性は、この「パッケージ力」と「ネイティブの人財力」に尽きると思ってます。
――なるほど。JJJの今後については?
守隨:2021年5月にオープンした8号店で、マレー半島の北から南までそろったんです。首都圏の店舗間ならは30~40分で行けるんですが、地方だと車で4時間くらいかかるし、まだ東海岸やボルネオ島には店舗がない。だからまずは、マレーシアのどこにでもJJJがある状態にはしたいと思ってます。現地のメンバーとは「20店舗は展開しよう」と話していますよ。
井上:マレーシアは守隨さんにお任せして、僕と小野沢さんは新しいチャレンジを始めております。どれだけの国に展開できるか、チャレンジしたいと思っています。詳しい中身は、またどこかで……(笑)。
――ほかの国でも、また「違いの壁が」立ちはだかったら?
井上:JJJのコンセプトに従う。それだけですね。日本の良いものをたくさん、安く販売して、お客様に買い物を楽しんでもらう。そして現地に合わせてコーディネートしていきます。
――ありがとうございました!
マレーシアの奮闘記、すごいですね! 国や文化の違いはあれど、人として大切なものは誠意。どこで誰と向き合うにしても、万国共通なのだと感じました。
TEXT:伊藤奈緒子
PHOTO:伊藤奈緒子、ほか提供
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井上:ブックオフはビジネスモデル上、販売より買取がはるかに強く、毎月たくさんの商品がロスとして押し出されていました。経営企画部にいた頃ここに強い関心を持ち、出口戦略に新しいビジネスの可能性を感じ始めていたんです。そこで松下さん(ブックオフコーポレーション株式会社の前社長)に何度も直訴し、新規事業準備室(現在のR室)を立ち上げました。
調査のためフィリピンやタイなどを回ったのですが、その時にマレーシアで最高のパートナー企業と出会ったんですよ。そこからとんとん拍子に話が進んだんです。