tofubeatsさん
1990 年生まれ。兵庫県出身。地元の神戸を拠点に音楽活動をはじめ、2013年にメジャー・デビュー。古今東西のポップミュージックに明るく、ときに普遍的とも言われる音楽センスを武器に、多岐に亘る活動を続けている。
tofubeatsさんとブックオフの出会い
――まずは、tofubeatsさんがブックオフに行きはじめたきっかけを教えてください。
たぶん、小学生の頃に親に連れられて行きはじめたのがきっかけです。持っているお金で最大限買い物をしようと思うと、郊外のそういうお店に行くしかない、という感じではあって、そのときは、ゲームを買ったりしていました。僕が当時住んでいた神戸のニュータウンだと、神戸の中心地に行くよりも、近所のブックオフに行く方が近かったんですよね。
その後、中学校に入ってちょっとずつ自分で使えるお金ができてから、ひとりでも行くようになりました。お小遣い制がはじまって、電車通学にもなったので。
――中学の頃というと、もう作曲をはじめていた頃ですか。
そうですね。ちょっとずつ自分で曲をつくりはじめていた頃です。その頃からブックオフで音楽も買うようになっていきました。当時はまだ中学1年生なので、全部新譜を買っていると、すぐに小遣いがなくなってしまうんですよね。最初に買ったのは、日本語ラップです。とにかく、「250円の棚にあるもの(※)」という縛りを設けて、そこにある作品を買い続けていました。
※記事中の価格表記は現在のものと異なる場合があります
――当時は新品を買うということはあまりなく……?
はい。買うとなると昔のものしか買えなかったので、新しいものはレンタルで、旧譜をブックオフで、という感じでした。あとは、ジャケ買いもしてみたりして。そうやってどんどん買っていくうちに、ベタなJ-POPも聴くようになっていったと思います。もともと好きだった日本語ラップの作品が250円の棚にほとんどないという理由で、J-POPを聴きはじめたんですよ。
tofubeatsさんが愛したCDたち
――じゃあ、tofubeatsさんの音楽の好みにも大きな影響を与えているんですね。
そうですね。それこそ、『First Album』に参加してもらった森高千里さんの作品も、最初はブックオフで全部揃えました。あとは、ピチカート・ファイヴもそうです。装丁がすごいCDがあると目を惹くので、そういうものに手が伸びたりもしましたね。
あとは……自分の仕事に繋がったもので言うと、藤井隆さんの作品に触れたのもブックオフがきっかけでした。ちょうどDJをはじめた頃でもあったので、「この中にはもっとまだいいものが絶対にある」と信じて棚を探していましたね。『水星』でサンプリングした今田耕司さんの曲『ブロウ ヤ マインド ~アメリカ大好き』(アルバム『アメリカ大好き!』収録。KOJI1200名義)も、ブックオフで買った音源でした。収納の都合上、ソフトケースに入れ替えてしまっているんですけど……当時買って、『水星』でサンプリングしたCDがこれですね。
――おおっ!
CDはクレジットが載っているので、そこからテイ・トウワさんや吉本興業がかかわっていることを知ったりするのも楽しかったです。あと、個人的には、ブックオフで見つけたものから曲をつくっていくのって、本来のヒップホップっぽいような気もするんです。格式ばったものではなくて、もっとストリートに根差した音楽という意味で。
――本日お持ちいただいた、ブックオフで買った他のアルバムもぜひ!
じゃあ、まずは杏里さんの『BOOGIE WOOGIE MAINLAND』。杏里さんの作品は、個人的には、どこのブックオフでも1000%、250円の棚にあると思っています(笑)。それだけ売れたということで。当時のアルバムはシンプルによくできているし、今よく言われているシティポップ的な作品とはちょっと違うような、もうちょっと初期の段階の作品がすごく好きでした。
――当時感じていた、杏里さんの作品の魅力というと?
250円の棚で見つけたので、値段の安さと作品のクオリティの高さが対応していないというか。それが当時の自分にはお得に感じましたし、現行の音楽ではなかったというのも、自分としては「いいなぁ」と思いました。僕は今でもブックオフに行っていますけど、そもそもこのCDが中古店に行くことにハマっていったきっかけの作品かもしれないですね。
ちなみに、『BOOGIE WOOGIE MAINLAND』は親も持っていた作品でもあって……。そういうよさもありますよね。「自分の親が持っているCDってなかなか聴かないけど、実はいい作品がたくさんある」みたいな。
あとは、吉沢梨絵さんの『SWEET REVENGE』と、具島直子さんの『miss.G』も持ってきました。『miss.G』は、最近レコードで発売されて再評価されたりもしていますけど、これも、もともとはブックオフで500円ぐらいでたくさん売っている作品だったんですよ。1990年代後半から2000年代の日本のR&Bって、まだなかなか再評価されていないところかもしれませんけど、個人的にはずっと好きで集めている作品ですね。
――ちなみに、特に気になる1枚が……この『大阪ソウルバラード』というコンピレーションは……?
こういう謎のコンピをブックオフで買うのって、楽しいと思うんですよ。それに、いい曲もいろいろ入っていて、たとえばトミーズ雅さんの『いじめやんといて』とか、めちゃくちゃ名曲だったりするんです。ほぼ『悲しい色やね』みたいな雰囲気の曲なんですけど(笑)。
――「なにわソウル」的なタイプの曲ですね(笑)。
そうなんです。そんなふうに、レコードを買う人たちがいろいろな作品を掘っていくようなことを、自分は最初にブックオフで学んでいったのかな、と思います。僕の場合は、レコードを買いはじめるのはもっと後で、今でもCDが一番買っている音楽メディアでもありますし。
ブックオフが音楽の幅を正しく広げてくれた
――ブックオフを通して音楽に触れたことで、特によかったことはなんでしょう?
やっぱり、店舗の数も多くて色んなところにありますし、車をバーンと横付けできますし。去年までは神戸に住んでいたので、神戸の中古ショップを何店舗か車で回って、カーステレオで聴きながら帰る、というのが本当に好きでした。「今日は当たりだった」「今日は外れだった」とか言いながら帰るのが、休日の楽しみのひとつだったんですよ。
――神戸の店舗はどちらに行っていたんでしょう?
「BOOKOFF SUPER BAZAAR 2号神戸長田店(※1)」によく行っていましたね。それ以外だと、「BOOKOFF 西宮北口店」「BOOKOFF 神戸伊川谷店」「BOOKOFF 三宮センター街店」もよく行っていました。
※1「BOOKOFF SUPER BAZAAR 2号神戸長田店]」
現在は移転して「BOOKOFF SUPER BAZAAR アグロガーデン神戸駒ヶ林店」となっている
店舗に行くと、まずは250円や500円のコーナーに直行して、まずはそこの棚を絶対全部見るんです。そこで1~2枚手に取るものがなければ、他のところもちょっと見てすぐ帰ることが多いんですけど、そこで何かいい作品があったりすると、全部熱心に見ていきます。あと、1枚しか欲しいものが見つからない場合は、よっぽど欲しいものじゃなければ、買わないで帰ったりもするというか……。
やっぱり、ブックオフって一気にたくさん買いたいんですよね。なので、1枚だけしかほしいものがないときは買わずにそのまま帰るんですけど、次に来たら「ない……!!」みたいな(笑)。
――なるほど(笑)。では、お持ちいただいたCDで1枚、DJ Honda『DJ Honda』はどうでしょう?
これもブックオフの安いコーナーの定番のひとつだと思うんですけど、実際に聴いてみたら「めっちゃいいやん!」という作品で。最初に聴いたとき、そりゃあ日本人で最初に世界で売れたDJだよな、と思いました。ブックオフでの出会いって、そういうものが多い気もします。「みんな好きだけど、自分は聴かないな」と思っていたものに触れて、その良さを理解できる場所というか。そういう意味でも、聴く音楽の幅を正しい方向に広げてくれたように思います。あとは、ブックオフにあるということは、「誰かが一度手に取った作品」でもあるということですよね。なので、「これを買った人が神戸にいるんだ!」という楽しさも感じるというか。そういうのが見えるのが好きな部分もあると思います。
――音楽が人づてに手渡されていく流れの中に自分もいる、という感覚ですね。
そうです。それって普通に新譜をチェックするのとはまた違う楽しさで、すごくいいな、と思うんですよ。でも、同時に、作品を聴いているときは、自分にとっては初めての音楽で新鮮でもあるというか。それに、店に行って好きそうなものを探すという、フィジカルな体験に紐づいているのも好きなところです。
そもそも、僕はブックオフに行くときぐらいしかほとんど車に乗らなかったりしますし、もともと免許を取ろうと思ったのも、実は中古ショップに行きやすくしたいからでした。自分にとっては、「中古のCDを買いに行きたい」ということが、結構大きな移動のモチベーションになっているんだと思います(笑)。
ブックオフにはブックオフだけの楽しさがある
――ブックオフに行くこと自体が楽しいということですかね?
そうですね。あまりにその行為をしすぎているので、改めて考えると「何でだろう?」と思うんですけど、ただ音楽を聴くだけではなく、「探す」「見つける」という行為がひとつ挟まることで、思い出が生まれるからなのかな、と思います。
僕は地方に行ったときにも、マネージャーと2人で中古ショップを回るんですけど、以前沖縄に行ったときに、ゆいレール(沖縄都市モノレール)に乗っていたら、その窓から「BOOKOFF 那覇小禄店」が見えて。2人で途中下車して向かったりもしました(笑)。店内に入ってみると、沖縄の店舗だからなのか「D-51や安室奈美恵さんの作品が多いな」と思ったりして、「もしかしたら、握手会に行った人が買ったのかな」と想像したりもして。そういうことが、すごくいいなと思います。
既に持ってるCDを何枚も買うこともありますし、具島直子さんの『miss.G』は、色んな場所で見つけては買っていて、「自分の家に来た人にあげる」みたいなこともしています(笑)。
――もはや布教活動ですね(笑)。
あと、今だとDJをするときや、ラジオで選曲するときに、ブックオフにそのアイディアを探しにいくときもあります。ネットでは、かなり調べないとその商品が出てこなかったりしますけど、棚にあるものを見て偶然の出会いが起こるのは、やっぱり店舗のいいところで。もちろん、僕らはプロなので、レコード屋でレコードを買ったりもしますけど、それとはまた違う経路で音楽との出会いを求めて通っている部分もあるんだと思います。
――オンラインでの購入と店舗での購入では、それぞれ違う楽しさがありますよね。
そうですね。店舗の場合は、何人かで行くのも楽しいです。僕がYouTubeのチャンネルでやっている動画企画も、そうやってみんなでワイワイするのが目的だったりもするんです。
一方で、ひとりでブックオフに向かって、そこで全然知らない人たちに混ざってCDを探すのも楽しい。その人たちと会話はしないものの、同志がたくさんいるような感じがするというか。そうやって、音楽を楽しむときに生まれる偶然のひとつを経験させてくれる場所なのかな、と思います。
新譜のレコード屋と中古レコード屋とブックオフって、それぞれ刺激の種類が違って、ブックオフにはブックオフの楽しさがあるというか。そういう意味では、最近東京に引っ越してきて刺激の種類が変わってきているので、早く郊外のブックオフにも行きたいです。都心の店舗って、いいものがたくさんあるのは嬉しいんですけど、逆にいいものがありすぎて「何か違うなぁ」という気持ちになるんですよ。車で買いに行って、「今日はいいのなかったな」と牛丼を食べて帰る、みたいなことが、休日の贅沢でもあるので。
――ハズレもあるからこそ、当たったときの喜びが大きくなるということですね。
あと、最近増えた楽しみ方は、「自分の作品を探す」ことです(笑)。「これは高いんだな」「これは250円なんだな」と思って見ているんですが、自分の作品が棚にあること自体がうれしくて。変な話なんですけど、ブックオフに置いてある自分のCDをまだお金のない学生さんが安く買ってくれたらいいな、と思ったりするんです。
自分の音楽への興味はもともとブックオフの棚からはじまっているので、「この場所まで届けたい」という気持ちもあって。
そう考えると、自分がメジャーデビューした理由のひとつは、本当にブックオフに通っていたからなのかもしれないな、と。ブックオフで売られたいというよりも、「ブックオフにはこんなにたくさんCDがあるけれど、これは全部メジャーの作品で、メジャーから出さなければ、この頭数には入れない」と思ったんです。
――なるほど。
その結果、自分の作品も「内容はよく分からないけど買う」というところまでいってくれたらいいな、と思ったりもしています。
あと、ミュージシャンの方はわかってくれると思うんですけど、「自分の家、ただただブックオフにあるものを持ってきただけやん!」ということは、冗談でよく言っています。一時期、棚も中古ショップで使われている棚を使っていた時期があって、「これはもうブックオフやん!」って(笑)。
最近は、ブックオフオンラインもよく利用していて、レア盤を登録して売られるのを待っていたりもします。ブックオフオンラインってオークションサイトみたいのとは違って商品の状態がかなり信頼できるというか、状態の表示と実態が相違ないので、安心感がすごくある気がします。
※ブックオフオンラインには、登録した商品の入荷をお知らせする機能があります
ブックオフがなかったらそもそもミュージシャンになっていなかった
――tofubeatsさんにとっては、色々な作品を教えてくれた音楽作品のアーカイブの場所のひとつが、ブックオフだったんですね。
ブックオフは俗っぽいところもすごく好きで、人が聴いているものしかそこにはない、というのが好きです。ブックオフにあるものは、ほぼ確実に一度は聴かれているので。
――美術館というよりも、ストリートの歴史が積み重なってきた場所、と言いますか。
そうですね。そういう感じがいいなぁ、と思いますね。
あと、ブックオフでのディグり方(※2)を教えてくれた先輩の存在も大きくて、「一番上の棚は光を殺して見ろ」(少し手前に倒すと、照明の反射がなくなって見やすくなる)とか、J-POP DJの先達に、棚を見る方法を教えてもらって。「いや、そんなことしてもスピードはそう変わらんやろ……」とも思うんですけど(笑)、自分よりも遥かにCDを買っていた先輩たちに色んなことを教えてもらったのも、とてもいい思い出になっています。そういうのも含めて、ストリートっぽいのがいいですよね。
※2「ディグり方」
数多くあるものの中から、掘り探すこと
――もしもブックオフが存在しなかったら、同じようにミュージシャンになっても、今とはまったく別の音楽性になっていたと思いますか?
たぶん、そもそもミュージシャンになってないんじゃないかと思います(笑)。
中学生の頃にブックオフのような店舗がなかったら、僕は音楽に対してそこまで興味を持っていなかったと思うんですよ。何かを好きになるとき、特に初期の頃って、たくさん量に触れることが大事だと思うんですけど、ブックオフは僕にとって、それを可能にしてくれたシステムのひとつでした。そういう意味でも、自分を助けてくれた存在だな、と思います。
TEXT:杉山仁
PHOTO:宇佐美亮
撮影場所:BOOKOFF 飯田橋駅東口店
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