(左)ビーアシスト株式会社 業務推進部長 大西美香さん
1999年にブックオフコーポレーション株式会社にアルバイト入社。同社の子会社で社員登用された後に店長や店舗支援を経験し、2012年ビーアシストへ出向。管理部門で損益の取りまとめや、行政・特例子会社(※1)間との調整を行う。
※1「特例子会社」
一定要件を満たして厚生労働省に認可された子会社。障害者の雇用促進と安定を図っている
(中)同社 人財開発部長 深水清志さん
1997年ブックオフコーポレーションに入社し、店舗に配属。15店以上に勤務経験のあるベテラン。2009年にビーアシストに出向し、人財の採用・定着支援や研修などを行っている。
(右)同社 町田事業所所長 塚越葉子さん
2012年にビーアシスト瀬谷事業所へアルバイト入社。2015年に社員登用され、町田事業所へ異動。2017年に所長となり、同所の運営や人財育成に注力している。
最強のツンデレ会社!? 障害者を雇用・支援しているビーアシスト
――ビーアシストでは、どんな方が働かれているのでしょうか?
※2「パートナースタッフ」
ブックオフグループ内の呼称で、障害者手帳を持つスタッフのこと
――皆さん、どんな作業をしているのですか?
大西:主にお客様からブックオフへお売りいただいたものを加工して、店頭に並べられる状態にする作業ですね。
――「加工」は、商品を拭いたり研磨したりする作業?
塚越:そうです。本やCD・楽器・アクセサリーの加工とか「ヤフオク!」に出品する商品の撮影、落札された商品の梱包・発送、トレカの補充、棚卸のお手伝いなど、町田事業所では34業務ほどあります。
――ビーアシストの事業所は、関東近県に5ケ所ありましたね。
大西:事業所によって作業内容は違います。例えば川崎事業所では洋服の加工もしていますし、東千葉事業所では全国から送られてくるホビー(おもちゃ・フィギュアなど)を加工して返送する作業もしています。
深水:障害者雇用のために無理やり切り出した仕事ではなくて、ブックオフ店舗の本業を一緒にやっているんです。
大西:チームビルディングがうまくいっている事業所がほとんどです。障害のあるメンバーがグループのリーダーになって、きちんとチームを回している。その辺りも、ブックオフの店舗と変わらないと思います。
――パートナースタッフを信頼して、仕事を任せているんですね。
大西:「障害者」という見方をしていないんです。他の特例子会社では指導員が付くことが多いですけど、ビーアシストでは「なんもでもやらせてみよう」「絶対できる」って任せることが多いです。
大西:その分苦しい思いをするスタッフもいると思います。でも「乗り越えて成長できる」と、強く信じているんですよ。そうやって成長してきたパートナースタッフをたくさん見てきました。
――会社設立から現在までトータルの離職率が低く、19.7%でした。信頼して任せていることが、パートナースタッフのやりがいに直結しているのでしょうか。
大西:確かに離職率は低く、定着率は良いと思います。他の特例子会社さんが資料を見たとき「離職率が低いですね」と言ってくださることが多いんです。
深水:「やりがいを持って働いてくれてるのかな」と感じる瞬間は多いですよ。うまくいっている他の特例子会社の話を聞くと、じっくり時間をかけて採用していますね。うちの場合も新卒の方には実習に来てもらって、数年かけて採用させてもらっています。仕事の向き不向きもありますし、本人がやりたい仕事かどうかも大切ですから。
――採用から育成まで、丁寧に寄り添っているのですね。他にも特長が?
塚越:私は10年近く勤めていますが「最高のツンデレ会社」だと思います。
――ツンデレ!?
塚越:肩書が付いていてもピシャっと叱られます。そういうとき「私、もう辞めた方がいい……? いないほうがいいんじゃない?」って思ったりしませんか?
――めちゃめちゃ思いますね(笑)
塚越:私もどんどん悪い方に考えが行ってしまうけど、そういうときこの会社の人は、絶対に手を離さない。必ず声を掛けて「そっちじゃないよ」って、さりげなく気付かせてくれるんです。もう最高のツンデレ会社だと思いましたね(笑)。
深水:あ~、それまさにブックオフカラーですよね。雰囲気も人財育成方針も、ブックオフと全く同じだなと思います。
大西:私も聞いてて、すごく伝わりやすいエピソードだな~と思いました。
塚越:甘いのと厳しいのが絶妙というか。
大西:アメとムチ的な?
塚越:そうそう(笑)。みんなアツい人たちだと思います。なんでもやらせてくれるし、失敗しても笑い飛ばしてくれますね。だから、次も頑張ろうと思える会社です。
氷山の下には何が? ビーアシスト流「人の育て方」
――入社された後、パートナースタッフはどう育成されるのですか?
深水:3つのキャリアパスコースがあるんです。作業班や事業所全体のリーダーを目指すマネジメントコース。業務マスターを目指すエキスパートコース。マニュアルにない専門知識があったり、コツコツ頑張ってくれる人はスペシャリストコース。本人の意思を踏まえて、チャレンジしてもらっています。
――やりがいがありそうですね!
深水:半年ごとに自分で目標設定をして、フィードバック面談の時にクリアしていればランクアップ。していなかったら「ココ頑張ろうね」って再チャレンジです。現状のプランだとクリアできる人とできない人がいるので、みんながステップアップできるように見直していきたいですね。
――「仕事を楽しんでもらいたい」という皆さんの熱意が伝わってきます。人財育成に関して、ビーアシストならではの特色はあるのでしょうか?
大西:やはり、ブックオフ色が強いことですね! ブックオフで主任や店長を務めていた人たちが所長になることが多いので。
塚越:一言で言うと「認め合い」。障害の特性はさまざまですから、自分だけが正しいということはないんですよね。事業所では常に「自分の障害を理解して、他人の障害も受け入れましょう」と伝えています。
――例えば、どんなシーンで伝えられているのでしょう?
塚越:私が町田事業所に異動してきた頃は、もめごとが多かったんです。当時はパートナースタッフ同士が本当によく口げんかをしてました。平和になるまで3年かかりましたね(笑)。
――口げんかですか? 皆さん黙々とお仕事されてる印象ですが……。
塚越:自分が正しいと主張する形になってしまって。右利き左利きで違ってくる作業も「やり方が違う!」ってなる。でも「自分を受け入れてほしいなら、まず相手を受け入れなきゃね」ってずーっと、ずーっと伝え続けて。今では誰かが困っていたら「何を手伝えばいい?」という声掛けできるようになりましたね。お互いを認め合うって、ものすごく大切なことだったんだろうなって思います。
――ものすごく地道に、向き合ってこられたのですね。
塚越:まばたきの速さで「今日はおかしい」と気付けるくらい、パートナースタッフをよく見ています。パソコン打っているふりをして、彼らの表情をじーっと見ているんです。少しでも様子がおかしかったら、必ず声を掛けます。
深水:本にADHDや自閉症の特性が載っていますけど、現場で向き合ってみるとその通りの人っていない。本当に人それぞれなんです。だから運営チームは「障害者に向き合う」ではなく「一人ひとりに合わせる」ことにエネルギーを使ってきたと思います。
―― 一人ひとりに合わせる、ですか。
塚越:夜遅くまでテレビ見たりゲームしたりしていて朝起きられないパートナースタッフがいて、それが原因で前職を辞めていたんです。町田事業所でも最初はしっかり出勤していたけど、だんだん遅刻が増えてきて、叱られたり、なだめられたりしながら、なんとか来ていました。
――また辞めてしまいそうな雰囲気……。その後、どうなったのでしょうか?
塚越:彼をチームのリーダーに任命しました。やりたいことを、やりたいように、やりたいだけやってもらおうと。そしたら全く遅刻しなくなって、朝は誰よりも早く来て在庫を数えるようになったっていうことがありましたね。
――え! 逆に、信用が求められる役職に?
塚越:仕事の楽しさを知ってほしかったんですよ。自分で立てた計画がクリアできたらうれしいですよね。協力してくれたスタッフにも感謝したくなるだろうし、やりがいを感じたら「遅刻する」「辞める」なんてことはしないと思ったんです。
――遅刻や欠勤が増えると「怠け癖・甘え」と判断してしまいがちです。でも、誰にとってもサインの1つなのかもしれませんね。
深水:その点では、運営チームが本当にしっかりサポートしてくれていると思いますね。顔色一つでも異変を察知してくれています。この10年で「対人支援スキル」を身に付けてきたと言っていいでしょうね。障害者支援では「氷山モデル」という考え方があるんですよ。
――氷山モデル?
深水:さっきの遅刻の話で例えると、遅刻は氷山の見えている部分に過ぎないんです。「遅刻するな!」と叱るのは簡単だけど、それでは遅刻が止まらないわけですよね。その理由は何なのか分析して、どうアプローチするかっていうのはどの事業所もやってると思います。
――相手のことを想像してみる、ということですね。世の中みんながそうできたらいいのに……。
塚越:私は、彼らのことが本当に好きなんです。だから、教えてもらいたい。理解したい。トリセツがあったらほしいくらいですね(笑)。
挫折、失敗、困難……手探りの10年から得たもの
――2020年に10周年を迎えられましたが、設立当時のことを教えてください。
深水:昨日まで「店長やってました!」という人たちで始めた会社なので、当時はみんな本当に知識がなかったんですよ。だから専門家の話を聞いたり本を読んだりと、各自で得た知識を共有し合いましたね。ビーアシストのメンバーは影ですごく努力してきたと思います。
――マニュアル・体系化がされていないところからのスタートだったんですね。
大西:仕組みができてきたのは2015~2016年くらい。他の特例子会社と交流が始まって、どんな支援をしているのか教えてもらったり、コンサルタントに依頼して研修制度を作ったり、社内研修を始めたりした時期でした。
深水:学校や就業・生活支援センターの方々との連携も不可欠で。当時はコミュニケーションのパイプ作りにも腐心しました。こちらから出向いて見学させていただいて、いろいろ教えてもらったりとか。
――というと設立から5年間は、かなり大変だったのでしょうか。
深水:設立当時は、パートナースタッフにどんな仕事を任せていいのか、分からなかったですね。なかなか仕事量を増やせなかった。当時の店長たちも「仕事を頼んでいいのか?」と戸惑っていたそうで、お互い手探りでした。
大西:当時の町田事業所の所長は非常に苦しんだようです。仕事が用意できなければ手が空いてしまいますから。そのとき直接「仕事をください」と店側に伝えたのが、ビーアシストのターニングポイントになったと記憶してます。当時は店舗と仕事の相談をすることはあまりなかったんですよ。
深水:あと昔は、パートナースタッフが1から10まで全部できないと任せちゃダメっていう感覚があったんですよね。でも「こちらが3割サポートすればできるなら、引き受けよう」というように柔軟に変わってきました。
大西:全ての事業所が安定して仕事を確保できるまで、5年はかかったと思います。
深水:今では「この仕事もやってくれませんか」「こういう業務があるんだけど、どうかな」って店舗の方がどんどん仕事を振ってくれるようになった。非常にありがたいです。
――土台を作る10年だったのですね。
大西:仕事面だけじゃなくて、「共済保険への加入推奨」や「障害年金をもらえるようにしていこうよ」とか、「臨床心理士に入ってもらおう」とか、そういう厚みを持たせた支援に変わったのもこの頃だったと思います。平面だったものが立体的になったと言うか。
――スタッフさんとの関わりにおいては、どんなプロセスがあったのでしょうか。
塚越:過去には、パートナースタッフから「嫌い」って言われちゃったこともありましたね。辞めてほしくないがゆえに、私がとても厳しく接してしまったんです。それぞれに特性があることを考えず、感情だけをぶつけてしまったと思います。結局、その人は退職に結び付いてしまった。「もっとやり方があったんじゃないか」と、ものすごく反省しましたね。
――「嫌い」。胸が詰まる言葉ですね……。
塚越:私の接し方が違っていたら、今も笑ってここで働いていたかもしれない。大げさかもしれないですけど「その人の人生を狂わせたのは私なんだ」って思っているんです。
――こうしたプロセスが「一人ひとりの“違い”に寄り添う」という今のアプローチにつながっているのですね。
塚越:個々によって対処法や、掛けるべき言葉が違うんだっていうことに気が付きました。本当に、とても身にしみましたね。
期待を背負い次の10年へ ビーアシストの未来
――10周年を経て、どんなお気持ちでしょうか。
大西:会社を作り上げてきたこれまでの10年と、それを継続していくこの先の10年はまた違うのかな、と思っていて。これまでは「本当にこれでいいんだろうか」と模索して、紆余曲折しながらやってきた10年だったんです。
――これからの10年は、どんなことをしていきたいですか?
深水:パートナースタッフのライフステージに合わせた支援は、大きい課題ですね。
大西:知的障害の方は加齢が速いと言われているので、認知能力の低下が早い可能性があるんです。昨年から、半年に一回のモニタリングを始めました。健康状態をチェックして、何歳くらいまで元気に働けるのか検証しています。
――既に対策をとられているんですね。
大西:精神・発達障害の方の雇用にも、積極的に取り組んでいきたいです。障害者手帳を持ってる方がすごく増えているのに、就労できる企業数が追いついていない現状があるので。
――ビーアシストでは、知的障害者の雇用が9割でしたね。
大西:精神・発達障害の方は、就労の安定という部分でも難しさがあります。週5日間、9時から5時までしっかり就労できる方のほうが少ない。だから就労規則の書き換えや、マッチングする業務を幅広く用意したりと、会社としてやるべきことがすごくたくさんあります。経験値だけでは補えないので、自分たちのスキルアップも欠かせないですね。
――確かに、これまでの10年とは違う取り組みになりそうです。
大西:ライフステージに伴う支援や精神・発達障害の方の雇用は、社会問題になっていますから、その分とてもやりがいがあると思いますよ。ただ、同時に難しさもすごくあります。それでもやっていきたいですね。行政や他の特例子会社から「ビーアシストがやってくれれば」と期待してもらっているのも感じているんです。
深水:設立当時は特例子会社が全国で約180社だったんですが、今は540社くらいに増えました。「積極的に取り組んでいこうよ」という空気感に変わってきた気がしますね。個人的には、これから「障害者雇用は普通のことだよね」っていう世の中になってくれたらうれしい。どこの会社でも集団でも当たり前の世界になればいいなって思いますね。
――ありがとうございました!
設立から10年、幾多の困難を超えてきたビーアシスト。その中で得たのであろう「相手を理解して受け入れること」が私たちにとってもどれほど大切か、かみしめる思いで取材を終えました。自分の物差しで決めつけない。「必ずできる」と信じて支える。何より「この人を理解したい」と強く、思う。そうやって家族や友達、周りの人たちを受け入れていくことが、健常者・障害者の垣根をなくしていく一歩になりえるのではないでしょうか。
TEXT:伊藤奈緒子
PHOTO:伊藤奈緒子
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深水:知的障害、精神障害、身体障害のあるパートナースタッフ(※2)が働いています。