お茶の間をにぎわせた寺田心さんのCM「ブックオフなのに本ねーじゃん!」。何気なくテレビを見ていたら、松本穂香さんが「あるじゃん!」と目を輝かせるCMに変わっていました。アレ? 2年前は「本がねえ」と言っていたのに、今度は「ある」……? どういうことでしょうか。どうしても気になったので、社内のCM担当者を直撃してみました。

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新CMはどんな内容? 今度のキーワードは「あるじゃん!」

こんにちは、ブックオフでコンテンツ制作をしている普通の社員、伊藤です。

新しいCMのことが気になりすぎて夜も眠れなかったので、CMの担当者に話を聞かずにはいられなくなりました。

気になるブックオフの新CMは、コチラ。

2021年4月28日にYouTubeで公開。再生数は600万回を超えている(2021年5月17日現在)。29日からテレビ放映された。

うん、やっぱり松本穂香さんが「あるじゃ~ん!」って、言ってます……!
この間まで寺田心さんが「本ねーじゃん」と言っていたのに……。

ないの後に、あるとは……?

なぞなぞでしょうか……?

これはもう制作した方に聞くしかないでしょう。

社内でCM制作を担当している偉い人を、直撃してきました。

笑顔でカメラを見つめる千田竜也さん
「ブックオフなのに本ねーじゃん」のCM制作に携わったマーケティング部長の千田さん。いつ何時も身の回りにある広告が気になって仕方ない職業病で、心休まらないのが悩みだとか。

ブックオフコーポレーション株式会社 マーケティング部長 千田竜也さん
2007年パートアルバイトとしてブックオフオンライン株式会社(当時)に入社し、倉庫の物流業務に従事。「現場の課題を解決したい」とマーケティング部に異動してゼロから広告戦略などを学ぶ。現在はブックオフコーポレーション株式会社のマーケティング部長に就任。CMの企画・制作に携わる。

――まずは改めて、新しいCMのことを教えてください。

心さん演じる店長が、開店準備中に「ブックオフなのに本ねーじゃん!」を披露するシーンから始まります。松本穂香さん演じるエリアマネージャーが防犯カメラ越しにそれを見て「話題になった本とか、買いそびれた本があるじゃん」とカットイン。「あるじゃ~ん!」と叫びます。

――あ、松本さんはエリアマネージャーだったんですね。

そうですね、パッと見ではあまり分からないとは思うんですけど……。事務所で仕事をしながら防犯カメラを見ているエリアマネージャー(※)という設定です。

※エリアマネージャー …… 特定エリア内の複数店舗を管理する役職。心店長の上司に当たる。

――こだわりのポイントは?

松本さんが「あるじゃ~ん!」と叫ぶメインカットです! 20テイク以上撮らせていただきましたので、松本さん渾身の「あるじゃん」は是非見ていただきたいポイントですね。

――20テイク以上の 「あるじゃん」 ですか!

一番大事な店舗の価値をキャッチコピーに込めたので、撮影当日までみんな「どういう言い方にしてもらおうか」と悩んでいましたね。心さんの「本ねーじゃん」がとても強いので、それに負けない松本さんの印象的な「あるじゃん」は、どれが正解なのかと。

――千田さんのチームからは、どんなオーダーを?

「あるじゃん」は、店舗で商品と出会うワクワク体験を表現したコピーなんです。なので「元気で明るい感じでお願いします」とお伝えしました。

目を輝かせて「あるじゃ~ん!」と叫ぶ松本さん。新しいCMの見どころです!

――寺田心さんも引き続き、店長として出演されていましたね。

CMでは心さんが松本さんに喝を入れられた後、「仕事しよ」って言うんですが、あの言い方はアドリブなんです。心さんの方から「ちょっとぶりっ子っぽいのはどうですか?」って提案してくれて、一番ハマったんですよ。企画の意図を理解してくれて採用までされちゃう。本当にすごい俳優さんだなと思いますね。

ブックオフのCMで、またしても驚くべき演技力を発揮してくれた寺田心さん
CM中では上司に当たる松本さんに媚びまくる心店長。次々変わる表情と演技力に驚くばかりです。

なんで「あるじゃん」なの? 新CMの裏話、教えてください

――ものすごく気になっているんですが、どうして「あるじゃん!」なのですか?

「ブックオフの店舗には、商品との出会いが“ある”」と伝える戦略を決めることから始まりました。この一年で消費者の生活様式が大きく変わったこともありますが、読書自体の需要が上がっているんです。それなら、ブックオフの店舗で本をたくさん買って読んでいただきたい、ということで。

――ブックオフの “店舗” で本を買ってほしい、という思いから。

そうです。店舗に来てもらうためには「店舗に行く意味って?」「リユース店の価値って何?」を議論する必要がありました。その結果「店舗には商品との予期せぬ出会いがある」「目的の物を買うだけという合理性では測れない良さがあるよね」というところに行きついて。

――合理性だけでは測れないのが店舗の良さである、と。

目的の物を買うだけなら、ネットで十分じゃないですか。ネットに比べたら店舗に行くって、非合理的な体験なんです。移動時間がかかるし、検索機がない限り商品を見つけづらいし……。でも、その非合理さがいいところだよねという結論に至りました。

――あ、それわかります。実際に店舗に行くと、予定にないもの買っちゃう。

「手に取ると欲しくなっちゃう」「昔読もうと思って忘れていた本を見つけた」とかね。それがリユース店の価値なんじゃないか、と気付いたんです。

――「店舗でしか味わえない体験が “あるじゃん”」 なんですね。

それを言葉でどう伝えたらいいか模索しました。一番苦労したのは「本ねーじゃん」の認知が強くて、アンケートで「見たことがある」と回答した人は60%以上いたことでした。だからこそ「あるじゃん」という真逆のコピーは、培ってきた「本ねーじゃん」という資産を生かしたとても印象的なメッセージになるんじゃないか、と思ったんですよね。

ブックオフのCM新シリーズについて裏側を語る千田竜也さん
広告代理店に制作を依頼する前に、じっくりと戦略を練るのがマーケティングチームの仕事。

――コピーは広告代理店の方が提案してくれるんですよね。ボツ案も?

英単語でかっこいい系の提案もありましたよ。ここでは言えないですけど(笑)結構攻めた案もいっぱいいただきました。

――攻めた案! 結構、自由に提案してくださるものなんですね。

そのあたりは企業によって違うみたいですね。僕はあまり制限なく「いったん自由に提案してほしい」とオーダーします。じゃないと、いいものができないというか。我々が決め過ぎてしまうと、クリエイターの引き出しがあまり開かないんです。

――新たに松本穂香さんをキャスティングした理由は?

ワクワク体験を表したコピー「あるじゃん!」を伝えてもらうので、明るく元気な印象の松本穂香さんにオファーさせていただきました。近寄りがたいほどのオーラを放つ女優さんだとブックオフのイメージと少し離れてしまいますが、とてもナチュラルで親しみやすい方だな、とも思いましたね。ブックオフの衣装がよく似合っていましたし、松本さんにお願いしてよかったです。

カメラを見つめる女優の松本穂香さん
新たにブックオフのCMシリーズに加わった松本穂香さん。
カメラに向かってほほ笑む俳優の寺田心さん
「本ねーじゃん」のCMに店長として出演した寺田心さんも、共演しています。

――芸能人といえば、オーラですね(?)。 お2人の印象は?

松本さんは本当に飾らない雰囲気の方。アピアランス(※)的に爪や髪の毛の色とか確認させてもらったんですが、そのまま店頭に立てるような状態でしたね。ナチュラルな印象とは言っても女優さんですし、何というか、とても気軽に話しかけてはいけないと……ご挨拶だけにして……(笑)。

※アピアランス …… 身だしなみのこと。スタッフが店頭に立つ前に、お客様に不快感を与えないか、作業に支障をきたさないかなど複数の項目でチェックする。

心さんはカメラが回っていないと普通の中学生なんですが、スイッチがオンになった瞬間、ああいう演技を一発で見せてくれるんですよね。本当に表情が豊か。さっきまで談笑してたのに「いきなり泣けるんだ!」と。良い意味で、ちょっと普通じゃないですね。

あと撮影の合間に店内の商品を見て、好きな漫画についていつも話をしてくれているのが印象的ですね。「あ、これ持ってない!」と言って、撮影の合間に談笑していました。

ブックオフらしく、そして人々の記憶に残るテレビCMを

千田さんが初めて手掛けたCMシリーズ。中でも「速読王」は、YouTubeの再生回数が1,300万回に及んでいる(2021年5月17日現在)。

着任して最初のイメージ調査で、ブックオフは「誰もが知っているブランド」「安定感がある」という良いイメージが浮き上がってきた一方、「古い」「チャレンジしているイメージが全くない」とネガティブなイメージも持たれていたんです。だからこそ「CMでは新しいチャレンジを」と思っていますね。このシリーズもそうですが、振り切った内容の提案を採用しがちです。

――その流れで「本ねーじゃん」も生まれたんですね。

あの当時は「ブックオフといえば本」のイメージが浸透していて、それ以外の商品カテゴリは、認知が低かったんです。実際は洋服を取り扱う店舗が100店以上あったりするんですが、全く知られていなかった。そこを解決したいよね、ということで生まれたCMですね。

――あのCMは「2019 59th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」でグランプリと総務大臣賞をW受賞しました。どんな影響がありましたか?

課題だった商品カテゴリの認知は、大幅にスコアが上がりました。あと印象的だったのは、小学生くらいのお子さんが2~3人が「本ねーじゃん!」と叫びながら店に入って行ったこと。「ここまで広がったんだな」って、感激しましたね。

――「そのCM、私が作ったんだよ」って、言いたくなる瞬間ですね(笑)。

ははは(笑)。リアルで反応があるっていうのは、一番大事だと思いますね。賞を取るとか動画の再生が何万回とかバロメーターはいろいろありますけど、身近な人の印象に残って真似までしてもらえるって、なかなかない。そういうCMに携われたことを、誇らしく思います。

CMの影響について笑顔で話してくれた千田竜也さん
「CM制作に関わった全ての人に、本当に感謝しているんです」と語る千田さん。たくさんの人の協力を得て、形にしているんですね。

――人の思い出の中に残るCMを作るって、すごいことですね。

CMを見て育った子達が、高校生になりアルバイトして本を買うとき、CMを覚えていたからブックオフを利用してくれるっていうことが、必ず起こってくると思うんです。こういう「資産」を作るという意味では、重要な役を担っているかもしれませんね。

あと、あのCMを放映してからマーケティング部の求人への応募が増えたんです。「採用にも影響が出るんだ!」って、身をもって実感しています。売上以外の影響も、いろいろと大きかったですね。

――影響が大きいからこそ、CM制作で大切にしていることもある?

「なんであんな変なCM作るんですか?」って言われることもあるんですけど……CMは広告なので「見たことある」って認知してもらわないと、役に立たないんですよ。

――え、変なCM ですか?

そうそう。奇をてらったものが多いので、ときにはお叱りをいただくこともあります。ブックオフのCMは放映期間がすごく短くて、本数も少ない。だからこそ、一度見ただけで印象に残るCMを意識しているんですね。

――確かに、インパクトがあると忘れにくいです。

あと「ブックオフらしさ」が、とても大切です。過去に感動系のエモいCMを作ったこともあるんですが、消費者の反応は思うように得られなかった。「良い作品」であることと、消費者に受け入れられるかどうかは、全く別なんだと痛感しましたね。

――“作品” で終わってはいけないんですね。

僕自身の自己証明をしたいとか、承認欲求を満たしたいわけではありませんから。多くのお客様に来ていただきたいし、売上を上げるためにCMを担当しているだけ。

庶民的な広告のほうが受け入れられるし、反応も大きいと実感してますね。どこかツッコミどころがあるっていうのが、ブックオフの良さ。老若男女問わず利用いただける身近なブランドなので、「親しみやすさ」はとても大切なんです。

――親しみやすくて、記憶に残るCMが求められている。

きれいな良いことを伝えるのがブランディングと思われがちですけど、「企業らしさを伝えること」が本当のブランディングだと思ってます。ブックオフのCMが流れると思わずクスッと笑っちゃう、そういうCMを作り続けたいですね。

「あるじゃん」の体験!? 目指すブランドコミュニケーション

――CM以外でやってみたいことは、ありますか?

今後やってみたいブランドコミュニケーションはありますね! 店舗での「あるじゃん」を、消費者の方に体験・体感してもらう店舗イベントやSNS企画を立案していきたいなと。体験に落とすと、テレビCMの内容が「ああ、そういうことか」って、ハラオチするというか。

――わ~面白そうですね! 具体的には?

昔流行ったときに読みそびれたベストセラーの本を見つけて思わず買っちゃった……といった「あるじゃん」体験とか、結構あると思うんですよね。でも皆さんの「あるじゃん」を教えてください……だけだとつまらないので、もう少し面白い要素を加えたいですね。体験してもらうと、ブランドイメージがより強く形成されます。「体験」は、テレビCMではできないことです。

よむよむ君人形を持ってほほ笑む千田竜也さん

今回のCM「あるじゃん」シリーズはしばらく続きます。「買取編」は夏くらいに放映予定です。お楽しみに!

――本日はありがとうございました!

「CMは作品じゃない」という言葉が、とても印象に残りました。常に求められているものを汲み取り、どうしたら相手に伝わるかを考える。CM制作に限らず、仕事人としても、もっと言えば人間としても大切なマインドではないでしょうか。そして「本ねーじゃん」と「あるじゃん」のCM制作には、きちんとした背景がありましたね。スッキリしたので、今夜はよく眠れそうです。

TEXT:伊藤奈緒子
PHOTO:伊藤奈緒子(一部提供)

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